機械システム工学部門/教授
高倉 章雄(塑性工学、材料加工)
植物は、成長過程で光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収・固定しているため、それの破棄(そのまま廃棄してもバクテリアによって二酸化炭素と水に生分解される)や焼却によって排出される二酸化炭素は、大気中の二酸化炭素量を増大させないとされ(カーボンニュートラル)、地球環境にやさしい循環型資源である。また、植物の代表例としての樹木は、老木に比べて若木の方が活発に光合成を行うことが知られており,計画的な伐採→植林→育林を行うことによって持続的に利用が可能な資源・材料といえる。
近年、石油依存度および二酸化炭素排出量の低減といった理由から、自動車・電器部品等に使用される樹脂材料・部材の代替として、植物由来資源に注目が集まっている。このような背景から、天然素材の強化材および生分解性樹脂を母材とする複合材料(グリーンコンポジット)、さらには、石油系接着剤や植物由来樹脂を一切使用せずに木質材料のみを素材とした塑性加工法の研究開発および活用が積極的に進められている。
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| 図1 成形金型の概要 |
本研究室では、接着剤等を一切使用せずに木質系バイオマス資源のみを素材として、塑性加工の手法によって高密度の複雑形状固形体の成形技術開発を行っている。一般に、植物の構成要素は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンが大部分を占めており、ヘミセルロース、リグニンは熱を加えることで軟化する性質を持ち、含有水分量が増加すると熱軟化温度が減少する性質を持っている。また、これらの構成要素は、一度破壊されて位置関係が変化しても熱圧を加えることにより再び形状固定する性質(バインダレス接着性)がある。これらの性質を利用することにより、植物に適切な水分、熱、圧力を与えることによって流動性を持たせ任意の形状に変形させ、自己接着性により再度形状固定させることができると考えられる。
接着剤等を一切使用せずに木材(スギ材)のみを素材として射出成形の手法によって容器形状の製品を成形する方法を以下に示す。射出成形に用いた成形金型は図1に示すように、(a)成形金型(半割型、ノズル、上下ポンチ)と、(b)密閉金型(外型、上下密閉工具、開閉式バルブ)によって構成されている。まず、水分量を調節した木材をバルク状態のままコンテナ内に入れ、金型を密閉状態にし、金型を加熱する。金型温度が所要の温度に達してから、ポンチを加圧し木材をノズルから流動させ金型内に充満させる。その後、バルブを開栓して成形体および金型から水分を排出し、金型を冷却してから徐荷して成形体を取り出す。
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| 図2 木材の金型への充填状況 |
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| 図3 成型品例 |
図2に、ポンチストロークの増加に伴う木材の金型への充填状況を示す。図に示すように、ポンチストローク(a)S=5mmにおいてノズル(直径2mm)から木材の射出が開始し、その後、ポンチストロークの増加に伴って木材が土台部、軸部、容器部へ流動し、ポンチストロークが(d)S=17mmに達したところで、木材は金型に充填する。
この射出成形の手法によって、スギの他に竹および稲わらを素材とした場合の成形体を図3に示す。いずれの素材においても、素材は金型内を流動・充填して、十分に固形化された成形体が得られた。それぞれの成形体の密度および平均ビッカース硬さは、スギ材:1.35g/cm3、18.6HV、竹材: 1.42g/cm3、24.2HV、稲わら:1.49g/cm3、12.6HVであった。なお、これらの成形体は、24時間の浸水においても形状固定が確認された。
一方、バイオマス・ニッポン総合戦略によると、バイオマス資源は国内に年間約2億4000万トン発生すると報告されており、それらはさまざまな用途として利用されているが、未だにその28%は未利用として廃棄されているのが現状である。その未利用バイオマスを工業的にエネルギー資源として利用することが可能となれば、約1200PJのエネルギー、原油に換算すると約3000万kl分のエネルギーを生み出すことになる。
これらの未利用バイオマスのうち木質性バイオマスの構成要素は木材と同様にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンから成るため、高密度の固形化が可能であると考えられる。すなわち、上述の射出成形の手法を用いて、各種の未利用バイオマスを耐水性のある高密度固形体に成形することができれば、保管が容易な高発熱量を持つ環境にやさしい循環型固形燃料が比較的容易に製造できる。
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| 図4 各種バイオマス固形体の密度 |
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| 図5 各種バイオマス固形体の密度 |
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| 図6 スギおよび固形体の燃焼の様子 |
スギ、竹、稲わらの他に、主に産業廃棄物として処理される素材としてもみ殻、スギの葉、銀杏の葉、大根の種、小松菜の種、あんこ搾りかす、紅茶搾りかす、ビール搾りかす、珈琲豆搾りかす、珈琲豆薄皮、珈琲豆粉末、酢飯を用いて成形した固形体の密度を図4に示す。図に示すように固形体の密度は、スギ(無加工)の3~4倍、木質ペレットの2~2.5倍、石炭とほぼ同程度に達する。これら固形体の体積当りの発熱量は、図5に示すように、約3800~7400cal/cm3の値(もみ殻を除く)を示し、これは石炭の40~80%に達している。なお、どの素材においても着火して間もなく有炎燃焼が生じ、その後無煙燃焼が長時間続くという傾向が見られた。燃焼の様子を図6に示す。このことから、成形された固形体は火持ちが良いために様々な用途の燃料としての使用が期待できると考えられる。
以上に述べたように、木質系バイオマス資源のみを素材とした高密度固形体の成形技術は、現在、利用価値がなく産業廃棄物として処理されている未利用バイオマス資源の有効活用ならびに地球環境にやさしい循環型資源のさらなる活用が期待できると考えている。
最後に、本研究室では、上述の木材の成形に限らず省資源・省エネルギーを目指した金属の新しい加工技術の開発(摩擦援用深絞り法、展開ブランク深絞り法、端面加圧再絞り加工法、バリなしせん断加工法など)に取り組んでいる。





