鉄工所の旋盤工として出発した武田周次郎(1877―1931)は、機械捺染を西洋から初めて導入した堀川新三郎の工場へ移籍し、明治34年(1901)から堀川工場の工員としてローラー彫刻技術の研鑽を積みました。明治36年には独立し京都の新町二条上ルに彫刻所を開設、これが彫刻専門工場の嚆矢となります。その後、大正5年(1916)に武田商会を設立、東京、和歌山、松山、広島に分工場を開設、全国的に事業を展開しました。また、これとは別に日本機械精工株式会社を創設し、捺染に必要な機械類を製作することで染色業界に貢献しました。大正10年(1921)には欧米を巡遊、写真製版技術応用の彫刻技術も学んで帰国しました。 武田周次郎の功績は、ローラー彫刻において、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、各々の長所短所を研究し、長所を総合した独自の機械を考案したことでした。こうした技術によって、新柄の彫刻を輸入に頼っていた日本の機械捺染産業は独立し、流行に柔軟に対応した生産が可能となったのです。
展覧会では、これまで進めてきた機械捺染についての研究成果をまじえ、武田周次郎が初めて開設した彫刻所や、大正期の武田商会、ヨーロッパ視察旅行などの資料を紹介します。武田彫刻所からは、ローラー彫刻技術者が数多く育ち、全国で活躍しました。徳岡彫刻所、京美彫刻株式会社など、現在にまでその系譜は続いています。
絣柄の機械捺染の黄金時代であった大正時代、第二次世界大戦後アフリカまで輸出を拡大した1960年代、こうした日本の経済を支えるまでに成長する捺染産業もローラーによるデザイン彫刻なしには語れません。こうした基礎を築いたのが武田周次郎だったのです。 本展で、京都の一大産業となった機械捺染の原点に迫る資料を紹介することで、時代を遡って、またひとつ機械捺染の歴史の記録を増やしたいと思います。