平成29年度海外教育連携教員派遣報告
粟辻 安浩 教授 (ハウメ1世大学)

所属 電気電子工学系
氏名 粟辻 安浩 教授
期間 平成29年4月26日 – 平成30年3月23日
滞在先 ハウメ一世大学(スペイン王国)
はじめに

スペインバレンシア州のカステジョン・デ・ラ・プラーナという町にあるハウメ一世大学に長期派遣させて頂いています.この町はバレンシアから地中海沿いに鉄道で約1時間半北上したところにあり,人口約18万人の町です.セラミックスがこの町の大きな産業です.アジア系の人も町中ではあまり見かけませんし,ましてや日本人には遭いません.観光客狙いのスリもこの町では殆ど聞かれず,治安のよい町です.

ハウメ一世大学

この大学は1991年創立のバレンシア共同体の公立大学で,カステジョン・デ・ラ・プラーナの中心から西へ約3km離れた場所に位置しています.学生総数は約1万5千人で,4つの学部,1つの研究科,27の学科・専攻を有しています.筆者は物理学専攻のEnrique Ataulfo Tajahuerce Romera准教授に受け入れて頂き,研究室内を中心に活動をしています.


写真1 ハウメ一世大学の筆者が滞在している研究室がある建屋

写真1 ハウメ一世大学の筆者が
滞在している研究室がある建屋

講義,演習,学生実験

物理学科の国際コース1年生向けの実験科目 物理学実験に参加させて頂きました.1学年全体で30名程度を2クラスに分け,1クラス約15名程度からなり,一人の准教授が担当します.1日に1クラスあたり4時間の講義と実験を行い,それを週1回行うことで,全体に対して,2週間で実施しました.内容は,交流回路,交流回路に抵抗,コンデンサ,コイルを直列に繋いだときに,コンデンサやコイルでは交流電流の位相がそれぞれ90度進み,90度遅れることを実験により確認すること.さらに,共振条件を求めることでした.単位認定には出席は必須で,実験課題に関してレポートが課せられ,レポートの内容で評価されます.実験中に回りながら学生が回路を組む際の配線の指導をさせて頂きました.
 また,医学科2年生を対象とした講義に参加させて頂きました.1学年全体で80人程度からなり,一人の准教授が担当します.全体を1クラスあたり20名程度の4クラスに分けて,1日に1クラスあたり2時間の講義を2クラス分2回続けて行い,それを1週間の中で2日間行うことで,全体に対して1テーマ分が行われます.2テーマ行うために,2週間で実施しました.内容は物理学の中で,波動に関するもののうち,波長,振動数,波の種類,縦波,横波,電磁波,音波,屈折率,偏光,反射,屈折,スネルの法則,レンズ,プリズムなどをスライドを用いて説明がなされました.講義中にレーザー光の反射鏡による反射の際の入射角と反射角の関係,屈折における入射角と屈折角の関係,凸レンズによる集光,凹レンズによる発散などを前でデモを行いながら説明しました.講義のほか,凸レンズや凹レンズによる結像の演習も行われました.出席は単位認定には必須で,演習課題に関してレポートが課せられ,レポートの内容で評価されます.
 さらに,医学科1年生対象とした講義に参加させて頂きました.こちらも1学年全体で80人程度からなり,一人の准教授が担当します.全体を1クラス20名程度の4クラスに分けていますが,こちらは1日に1クラスあたり4時間の講義と実験を行い,それを1週間の中で2日間行うことで,2クラスに対して1テーマ分が行われます.全体に対して1テーマ行うために,2週間で実施しました.内容は物理学の中で,電気電子に関するもので,原子の構造,電子,原子核,クーロン力,電気抵抗,オームの法則,コンデンサに関する講義が行われました.さらに,電流-電圧特性(オームの法則),コンデンサの時間-電圧特性,RC回路の時間-電圧特性並びに時定数を確認する実験が行われました.出席は単位認定には必須で,各実験に関してレポートが課せられ,レポートの内容で評価されます.物理学科,医学科いずれの学生実験,演習も実験器具やコンピュータの使用環境は技術職員が事前に整えていました.どの講義,演習,実験中に時折,教員が学生に質問を投げかけ,学生を指名し,指名された学生が解答するというインタラクティブな進め方がされていました.1クラスあたりの人数が少ないためか,ほとんどの学生は熱心に講義を聴き,また実験を行っており居眠りをする学生は皆無でした.

博士論文学位審査

受け入れて頂いた研究室の博士課程学生の博士論文審査委員ならびに博士論文公聴会審査委員を務めさせて頂きました.公聴会の約2カ月前に,筆者のCVを大学に提出し,約2週間後には審査委員として認められると同時に,博士論文が渡されました.その約10日後までに,Webを通じて評価結果を入力する必要がありました.入力期限直後に評価の結果公聴会開催が決まり,公聴会の委員としての依頼と案内がきました.その約10日後の午前に公聴会が開催されました.公聴会の審査委員はスペインの大学の准教授,学位を有するスペインの企業勤務と筆者の大学外部からの3名で構成されました.公聴会には学位を請求している当該学生の所属する研究室の教員6名,学生約10名と当該学生の家族4名が出席しました.請求者は,研究の要旨を約3分程度スペイン語で説明した後,約50分の英語の発表がありました。その後,各審査委員が順番に5~10分の質問を行いました.筆者以外の審査委員はスペイン語で,筆者は英語で質問しました.質疑応答が終了すると,審査委員以外は会場から廊下に退出し,会場では審査会が英語で行われました.審査会は約10分で終了し,その間廊下で待っていた参加者を再度会場に入室させ,審査結果として学位認める旨を報告しました.学位授与の合否は,研究科教授会等を通すことなくこの審査会の結果で決定します.そのために,報告直後には皆とても大きな喜びを表し,教員や学生は,当該学生やその家族に賞賛の言葉を贈っていました.報告直後には,会場の隣室に審査委員,学位請求者,参加者が移動し,当該学生の家族が用意した軽食と飲料(含むアルコール)でパーティが約1時間にわたり行われました.
 このように,外国の博士論文ならびにその公聴会の審査委員を努めるだけでなく,公聴会直後に開かれるパーティなどへの参加も含めて,京都工芸繊維大学や筆者の出身大学とは異なる貴重な体験をさせて頂きました.

研究室

長期派遣の間,滞在させて頂いたのはGrup de Recerca Optica de Castello Photonics at UJIという研究室で,新規イメージング技術や超高速レーザー技術に関する研究を行っています.とくに,近年では,シングルピクセルイメージングと呼ばれる,単一光検出器を用いて,物体の2次元あるいは3次元イメージングを行う研究や,散乱イメージングと呼ばれる通常の撮影方法では記録できない,散乱体の向こう側にある物体を撮影する技術の研究を精力的に行っています.派遣期間中には,これらに関する学生の研究指導に参加させて頂きまた,9月から12月の間,京都工芸繊維大学の筆者の研究室の院生2名が,この派遣先にインターンシップとして留学してきたので,派遣先の院生と教員,筆者の研究室の院生と筆者が共同で研究に取り組み,両大学の学生の研究指導という貴重な経験もできました.これらの取り組みで得られた成果を国際共同研究として発表するとともに,日本に帰国後もこの研究を共同で進めていきたいと考えています.


写真2 ハウメ一世大学の居室での筆者

写真2 ハウメ一世大学の居室での筆者


写真3 滞在先の院生と京都工芸繊維大学での筆者の研究室の院生との共同研究ならびに筆者による指導中の様子

写真3 滞在先の院生と京都工芸繊維大学での
筆者の研究室の院生との共同研究ならびに筆者
による指導中の様子

スペイン

日本出発前は,通常常務に追われてスペイン語を全く勉強せずに派遣先に来ました.町中では,英語は通じず住民登録や延長ビザの申請などの行政手続きは受入先教員のTajahuerce先生に手伝って頂きなんとか済ませられました.この地方での言語はスペイン語以外にスペイン語にはかなり近いバレンシア語やカタルーニャ語も使用しており,行政文書はカタルーニャ語でした.スペイン語が不自由でも,生活に必要な物資は容易に購入できるために,問題無く通常の生活はできます.スペインの緯度は日本とさほど差は無いので日照時間は日本とほとんどかわりませんが,スペインが位置する経度とスペインが設定している標準時との関係ならびに夏時間により,時計の針が示す時刻と日照の様子が日本よりも2時間早く感じるとともに,昼食が2時過ぎにスタートするなど,生活のリズムになれるのに苦労しています.いまだに,食事の時間になれていません.

おわりに

貴重な機会を与えて頂いた本スーパーグローバル大学創成支援事業ならびに,受入れならびに派遣先での活動,生活にわたってご支援頂いたハウメ一世大学Enrique Ataulfo Tajahuerce Romera准教授に心より感謝いたします.また,不在中の業務等でご支援, ご協力頂いた電気電子工学系,光エンジニアリング研究室の皆様に心よりお礼を申し上げます.帰国後は,派遣先での教育経験,得られた知識,築いたネットワークを本学での教育・研究に活かして行きたいと思います.