令和2年度 大学院工芸科学研究科 入学宣誓式(秋季)
学長祝辞

 

 京都工芸繊維大学に新しく大学院学生として加わる新入生諸君、また本学博士前期課程から引き続き博士後期課程に進学する学生諸君、ご入学おめでとうございます。本日ここに入学宣誓式を迎えられたのは、大学院博士前期課程14名、博士後期課程19名です。
 今年は、新型コロナウィルス感染症のため、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保つ中で、式も少し簡略化して行うことになりましたが、本日皆さんととともに、この入学宣誓式を行えることは誠に喜ばしく、嬉しく存じます。

 さて、本学は1949年の大学創立から70年を超え、前身校の一つである1899年設置の京都蚕業講習所、1902年設置の京都高等工藝学校からは約120年となります。大学院は修士課程として1965年に工芸学研究科が、1966年に繊維学研究科が設けられ、1988年に2つの研究科が統合されて、博士課程を持つ工芸科学研究科が設置され30年を超えました。
 本学は言うまでもなく、京都にあります。千年の都である京都は、日本の伝統産業、文化の醸成を担って来ましたが、とりわけ、ものづくりの発信地として多くの「もの」も生み出してきました。そのものづくりのマインドは、伝統に敬意を払いつつ、新しい技術や発想を取り入れ新たな価値を創造し、社会的なイノベーションを生み出そうとするマインドです。本学で大学院の学生生活を送られる皆さんには、京都という場のもつ力を、是非、勉学・研究に生かすよう心がけてください。

 さて、本学の人材育成の目標は、単なる技術者ではなく、我々が言うところの「TECH LEADER」を育てることです。テック・リーダーとは、工学の知識・技能に基づいてリーダーシップを発揮し、さまざまな社会的プロジェクトを成功に導くことができる人材です。そのために、専門力、リーダーシップ力、外国語運用能力、文化的アイデンティティの4つを、それぞれ知識だけでなくスキル、行動も含んだ能力として「工繊コンピテンシー」として謳っています。

 現在、大学院工芸科学研究科においては、テック・リーダーのコンピテンシーをさらに高め、実践できるようにするために、専門に特化するだけの人材育成に止まらない先進的な新しいプログラムを展開しつつあります。それは、バックキャスト型でデザイン思考を導入した実践的課題解決プロジェクトを産学協働で取り組むプログラムです。バックキャスティングとは、どんな社会にしたいのか、どんなものを開発したいのかという目標を設定し、研究・技術開発を進めるようなスタイルを言います。この目標そのものを抽出し、課題解決に向けた方法を企画するプロセスをデザイン・シンキングと呼びます。
 本学では、全学的な大学院プログラムとしての「デザインセントリック・エンジニアリングプログラム」、そして京都地域の企業の強みを活かす設計工学分野を中心とした「超階層・異分野統合価値創造エンジニアリングプログラム」をすでに開始しています。さらに現在、物質・材料化学分野を中心とした「共創教育による博士後期人材育成プログラム」を準備しています。これら3つのプログラムは、世界を見据えるとともに、地域産業への貢献も考慮したものです。産学連携・産学協働を必須要件とし、積極的に異分野横断による知恵を取り入れ、海外の第一線級の大学とも協働し多様な構成員で多面的創造の視点を取り入れられるよう設計しています。社会的なイノベーションは、専門に特化した研究だけでは実現できません。広範な分野の協働が必要です。今後も本学のあらゆる専門分野に展開していく予定です。
 その他にも、皆さんが大学院学生として尚一層成長できるように、ダブルディグリープログラム、国際ワークショップ、サマースクール、国際交流協定大学等を対象とした留学、企業等へのインターンシップなどの機会も用意しています。新型コロナウィルス感染症の世界的流行で、皆さんの挑戦がこれまでのようには行いがたい状況になっておりますが、新たな生活スタイルの中で、英知を結集してより良い方向に向かっていきたいと思っています。

 皆さんの大学院生活がコロナ禍の中であっても充実し、そして輝かしい成果を挙げられ、成長されんことを祈念し、期待しています。共に頑張りましょう。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、告辞といたします。

令和2年9月25日
京都工芸繊維大学
学長 森迫 清貴