令和4年度 工芸科学部・大学院工芸科学研究科 学位記授与式 学長祝辞

令和4年度 学位記授与式 祝辞

工芸科学部大学院博士前期課程大学院博士後期課程での本学学長からの祝辞を掲載しています。

 

工芸科学部 学位記授与式 祝辞

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 本日、京都工芸繊維大学工芸科学部を卒業され、工学士あるいは農学士の学位を取得された皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。
 ようやくこの4月には、ほぼコロナ前の生活に戻りそうですが、この3年の間、新型コロナウイルスによる感染の波が何度も繰り返す状況の下で、皆さんの学生生活は、入学前に描いていた大学生活とは程遠いものであったと思います。大学生として、もっと様々な経験が出来るはずだった貴重な時期に、個人ではどうしようもない、かつ、終わりが見えない状況で、日々過ごさざるを得なかったことは、さぞかし苦しく、歯痒いものであったのではないでしょうか。
 しかしながら皆さんは、着実に学びを続けられ、卒業研究あるいは卒業プロジェクトに取り組まれ、そして本日の学位記授与式に臨まれました。このことに、まず賛辞を贈りたいと思います。さらに、こうした逆境のなかにおいても、工夫し、何某かのことに挑戦された方、また様々な制限の中で出来ることを探し、有意義な成果をあげられた方に、重ねて称賛をいたしたいと思います。
 おそらく「コロナ世代」と呼ばれる皆さんにとって、他の世代には経験できなかった苦労話や自ら頑張ったと言える話が特長になっていくと予想されます。振り返っておかれることも意味があるでしょう。

 さて、皆さんに先ほど学士の学位を授与しましたが、改めて本学工芸科学部のディプロマ・ポリシー、学位授与の方針を確認しておきたいと思います。   
 ディプロマ・ポリシーとは、学部・課程の「教育研究上の目的」を達成するために学習指導した成果である学位授与の判断のための基本的な考え方、また期待する能力を示したものです。本学工芸科学部の「教育研究上の目的」は「幅広い教養と高い倫理性を有し、自らの構想力と遂行力・リーダーシップによって、21世紀の産業、社会、文化に貢献できる国際的な理工系専門技術者、TECH LEADER、を養成すること」です。
 皆さんは、本日、各課程の専門力、リーダーシップ、外国語運用能力、個の確立の4つの要素からなる工繊コンピテンシーを獲得できるように設計された授業科目の単位を修得し、卒業要件となる単位を満たしたことで、本学の定めたテック・リーダーとして認められたことになります。
 「コロナ世代」であるがゆえに、国際交流やグループワークなどの経験不足が多少あるかも知れません。しかし、それらは、けっして自己責任ではなくやむを得ないことでした。意識を強くもって、そうした機会を活かし補完に努めていただくようお願いします。

 ところで、世界は、新型コロナウイルス感染症だけでなく、地球温暖化問題、地震災害や洪水、そしてウクライナへのロシアの侵攻など、社会不安も重なっています。国連のSDGsにあるように、人類は産業革命以後の社会システムの価値体系を、大きく変革しなければならない時代に入っていると思います。世界的にデジタルトランスフォーメーション、DXを伴うテクノロジー・イノベーションによって格差社会、気候変動などのグレートリセットを起こすであろうという論もあります。情報技術に関わらずあらゆる分野のテクノロジーへの期待はこれまで以上に高まっています。
 また、日本においては、少子高齢化による就労人口減、大都市集中による地方衰退の課題が解決されないまま深刻化しています。皆さんは1学年が日本全体で120万人程度ですが、私の世代は大体200万人でした。2022年に生まれた人は80万人を下回ってしまいました。われわれの時代の4割、皆さんからすれば7割をきっていることになります。生産性の向上のみならず個々の生き方に関わるような新しい価値のあり方を構築するにもテクノロジー・イノベーションは必要です。

 そうしたテクノロジー・イノベーションを牽引する人材として、テック・リーダーとして本日卒業される皆さんへの期待は大きいものがあります。
 私をはじめとして年齢の高い世代の「われわれのときはこうだった」というような経験知は必ずしも皆さんの役に立たないと思います。皆さんは自ら情勢を見極め、自ら考え、協働する仲間との討論や決断、作業を通じてイノベーションを実現に導いてください。

 大学院に進まれる方も社会に出ていかれる方も、テック・リーダーとしての自覚を持ち、これからの世界の科学、産業、文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。
 頑張ってください、応援しています。

令和5年3月24日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴

大学院工芸科学研究科博士前期課程 学位記授与式 祝辞

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 本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士前期課程を修了され、修士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。
 本学は、1988年の工芸科学研究科設置以来、これまでに12014名の修士号の学位を授与して参りました。本日は、修士学位12015号から12501号までの学位を授与いたしました。
 修士としての期間中、新型コロナウイルス感染症のため皆さんは様々な制限を受け、計画していた学修や研究にも支障があった方もおられたでしょう。そんな状況にも関わらず、学びを継続し、修士研究あるいは修士制作に取り組み、本日の授与式を迎えられた皆さんの努力に対し、学長として賛辞を贈ります。そして指導された教員の方々にも、感謝の意を表します。また、皆さんをこれまで支えてこられたご家族・関係者の方々にも心より感謝をいたしたいと思います。

 さて、皆さんは、工学修士あるいは農学修士の学位を得られたのですが、本学の定めた修士レベルの高度専門技術者「TECH LEADER」にもなられたのです。多くの方はテック・リーダー人材として社会に出ていかれます。また、博士後期課程に進み、さらにワンランク上のテック・リーダーを目指される方もおられると思います。これまでもテック・リーダーの定義ついてはご存じかと思いますが、博士前期課程の修了にあたってもう一度確認しておきます。
 テック・リーダーとは、「専門分野の知識・技能を基盤として、グローバルな現場でリーダーシップを発揮して様々な社会課題に取り組むプロジェクトを成功に導くことのできる人材」のことを指します。本日のこの式において、改めてしっかりと自覚してください。

 ところで、この3年、わが国の社会状況や生活状況が目に見えて変化していることを実感されていると思います。例えば、オンライン授業やウェブ会議、テレワークなどが当たり前に行われるようになりました。この新型コロナウイルス感染症が終息しても従前には戻らないと思います。1990年代後半から日本政府がSociety4.0と呼んでいた情報社会がまさに通常になってきました。さらにIoTやAIが様々に活用され、サイバー空間とフィジカル空間を融合させたシステムによって新たな価値が産業や社会を変革させつつあるSociety5.0と呼ぶ世界に入っていることも気づいておられるでしょう。
 また、世界は、新型コロナウイルス感染症だけでなく、地球温暖化問題、地震災害や洪水、そしてウクライナへのロシアの侵攻など、社会不安も重なってしまいました。エネルギーや穀物などの輸入が難しくなり、日本は久方ぶりにインフレ傾向が見られています。1990年代前半のバブル崩壊以降、経済停滞、産業不振からなかなか抜け出せずにいましたが、少し変革の動きが見え始めています。日本にとって、テック・リーダーである皆さんはきっと期待されているはずです。

 変革の一つとして、ジョブ型雇用と成果主義が広まりつつあります。日本企業の多くは、これまでメンバーシップ型という雇用システムをとっていましたが、徐々にジョブ型の雇用システムに代わりつつあります。また、年功序列の人事制度が大企業と言われる会社でも見直され始めています。
多くの皆さんは、この4月から企業に入られるのでしょうが、その会社はどうでしょう。
 仕事内容とそれに対処する能力、そしてその成果が報酬の基本となる年俸制のジョブ型雇用は、テック・リーダーにとっては有利な制度であると思いますが、常に技術力の更新、拡張を心がけていく必要があります。
 今、様々なフェーズで大きく変わりつつあります。私は皆さんにとっては祖父世代になりますが、親世代の経験が必ずしも通用しない社会になっています。「これまでこうだったんだから」で通用するでしょうか?
 私にはそうは思えません。

 もう一度言いますが、本日、修士の学位を取得された皆さんは、テック・リーダーの有資格者です。テック・リーダーの自覚を持ち、各自が直面されるプロジェクトでは、「ワクワクする」、「元気になる」といったような思考を心がけてください。本学が取り組んでいるデザイン思考やアート思考が役立つこともあると思います。

 本学は皆さんを心から応援しています。皆さんが、世界の科学、産業、文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和5年3月24日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴

大学院工芸科学研究科博士後期課程 学位記授与式 祝辞

式典の様子を録画した動画はこちら

 本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程を修了され、学術博士あるいは工学博士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。
 
 本日は、課程修了による博士1070号から1096号までの学位を授与いたしました。皆さんのこれまでの研究成果は、本学の知的財産に加えられ、学位論文は広く公開されます。そして、それぞれの分野において今後の技術革新や産業創出に活用され、また科学の発展や文化の深化に貢献することが期待されます。新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延したこの難しい時期に、研究を粘り強く進め、論文をまとめられた皆さんの努力に対し、改めて心より賛辞を贈りたいと思います。そして指導された教員の方々、これまで支えてこられたご家族・関係者の方々にも、感謝の意を表します。

 さて、新型コロナウイルスの感染の波が幾度も繰り返されたこの3年間、日本の情報活用が、ゲームや携帯電話、インターネットなどだけでなく、生活を守り、社会を支えるために不可欠な基盤技術であることを社会全体が知ることになりました。皆さんも学会発表や研究会報告、また国際会議なども、オンラインでの参加だったのではないでしょうか。そろそろ対面での会議も行われるようになってきましたが、全てが元に戻ることはないでしょう。これからはオンラインと対面の併用や、目的に応じた開催方式が採られることになると思います。
 さらに、新型コロナウイルスの世界的な感染は半導体不足も引き起こし、サプライチェーンの問題も顕在化しました。また昨年のウクライナへのロシアの侵攻に伴って生じたエネルギーや食糧需給の問題も重なっています。また、カーボンニュートラルあるいはゼロカーボンなどの地球温暖化対策も含めた国連のSDGsも喫緊の課題となっています。

 現在、人類は産業革命以後の社会システムの価値体系が、大きく変革される時代に入っていると思います。世界は確実にデジタルトランスフォーメーション、DXが進んでいます。DXがあらゆる技術においてイノベーションを誘発、推進し、格差社会、気候変動などのグレートリセットを起こすであろうという論もあります。情報技術に関わらず、あらゆる分野のテクノロジーへの期待はこれまで以上に高まっています。

 皆さんはそれぞれ専門の異なる研究で、博士になられたのですが、本学が人材育成目標としている高度専門技術者「TECH LEADER」にもなられたのです。工芸科学研究科の学位授与の方針すなわちディプロマ・ポリシーにおいて「21世紀の産業と文化を創出する国際的高度専門技術者、研究者等の高度専門職業人となり得る人材であると認められれば、博士前期課程では「修士」、博士後期課程では「博士」の学位を授与する」と記されています。テック・リーダーは本学が定めた名称ですが、この国際的高度専門技術者、研究者のことです。博士では「自立して研究活動が行え、国際舞台で活躍できる開発技術者、研究者」であると認められなければなりません。皆さんは、テック・リーダーとして、研究や技術開発プロジェクトを牽引する人材になられたのです。これまでに身につけてこられた研究の進め方、困難な問題に直面したときの解決への探索の仕方を経験し、課題に挑戦する意思と解決へのプロセスを計画し遂行することこそが、博士であることの価値であり、証です。

 一方で、テクノロジーが万能ではないこともわかっておられると思います。博士となられた今、もう一度、現在に至った社会や産業の歴史も問い直し、検証して、人類にとってより良いテクノロジーの展開を考えることも必要です。

 博士の学位を得られたことは賞賛に値することです。大いに喜び、誇りに思ってください。そして新たなステージに立ち、今までと違う景色を見ていることを自覚して、挑戦へのスタートをきってください。与えられて業務にあたるのではなく、望ましい未来を実現するために、博士学位を持つ者として「自分に何が問われていて、何をなすべきか」ということを常に意識し、それぞれの場所で活躍していただきたいと思います。
 
 また、本学を離れられても、時には本学にも目を向けていただき、われわれの活動に対し、博士技術者、博士研究者としてご意見、ご協力をいただけることを期待しています。
 最後に、これからの世界の科学・産業・文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和5年3月24日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴