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「あかっかね~」
ようやく意味のある言葉が出てくる1歳半。私は、飛行機の中から滑走路の誘導灯を見て、母に語りかけたと言います。その時、私は「光」の存在を初めて認識したのではないかと思います。皆さんは、日々の生活の中で光の存在をどのくらい意識しているでしょうか。もちろん、朝が来て太陽が昇り、光を浴びて人々は生活をします。暗くなれば、LEDの光が我々の手元を明るく照らしてくれます。このホームページを見ているのも、インターネット、光通信の恩恵です。日常の生活の中で、意識していなくてもそこにあるものが「光」であり、その「光」を使った最先端の技術が生活の基盤となっています。
光は、透明な媒質中において屈折率により制御されます。ガラスのコップに入れた水の中でガラスの棒が曲がって見える、これは空気と水の屈折率が異なるため、光の屈折が起こるから、というのを習ったことがあると思います。このように、媒質内での光の伝搬方向の制御は、空間的な屈折率分布によって行われています。2種類以上の屈折率の異なる媒質を、光の波長(100ナノメートル~1000ナノメートル、1000万分の1メートル~100万分の1メートル)程度の周期で「規則正しく」並べたナノ周期構造が、「フォトニック結晶」です。
フォトニック結晶を用いると、光の伝搬を制御したり、特定の波長の光だけを反射・透過させたり、レーザー共振状態を形成したり、光を自由自在に操ることができます。特に、私が取り扱っているのは、フォトニック結晶の中でも、半導体薄膜上に空気孔を2次元的に配列した2次元フォトニック結晶と呼ばれるものです。
1958年~1960年、レーザーの発明により、人類が光の発生をようやく精密に制御できるようになりました。太陽、エジソンランプ、蛍光灯などの他のどの光源から発せられる光よりもずっと均一な光がレーザーです。瞬時にどこまでも遠くに拡がらずに飛ばすことができる「指向性」と、大きなエネルギーを小さな領域に集めることができる「収束性」が特長です。
一般的なレーザービームは真円(単峰)形状のものをイメージすると思います。これに対して、私の研究では、光のもつ偏光や位相という物理量を空間的に制御することで、レーザービームの形状を中心の暗いドーナッツ形状にした、ドーナッツビームを中心に研究を推進しています。ドーナッツビームの面白さの一つはその収束性です。単峰のレーザービームでは、その収束性の限界は、光の波長程度(回折限界)であり、かつ、その最も集光された状態は1波長程度の領域でしか維持できない(焦点深度)ことが分かっていました。一方で、私の研究では、ドーナッツビームを狭リング形状にして集光すると、単峰のレーザービームよりも小さく、かつ、広い領域にわたってその小さな集光点を維持できる(長焦点深度・微小集光)という特性を明らかにしてきました(図1、文献1)。このような新しい集光特性を有するレーザービームは、高精度な光加工、高密度な光記録、高分解能な顕微鏡技術などへの応用が期待されています。
さらに、ドーナッツビームの発生は、光源の外に複数のレンズなどの光学部品で構成される光学系を必要としていました。私の研究では、これをフォトニック結晶のデザインによって、1 mm角程度の小さな半導体レーザーで発生させることに成功しています(図2、文献2)。単一素子でドーナッツビームを高効率に生成できる、世界唯一の技術です。
さて、先の文章で、フォトニック結晶は、2種類以上の屈折率の異なる媒質を、規則正しく並べた周期構造と述べました。ところが、最近、私はこの「規則正しい」という常識を超えて、新しい光制御の可能性を考えています。
そこで、今取り組んでいるのが、「歪(ひずみ)フォトニック結晶」というものです。これは、フォトニック結晶を構成する格子点(空気孔)の位置を、連続的に緩やかに変化させたような構造です。この構造を用いると、屈折率一定の条件下であっても、光を湾曲させられることを見出しました(図3、文献3)。面白いことに、実は、この光が曲がる原理は、宇宙の現象を説明することで有名なアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論で説明できるのです。一般相対性理論では、「光は曲がった空間の測地線を進む」ということを教えています。その測地線方程式を解くと、この歪フォトニック結晶での光の湾曲と良い一致が見られ、光に対して、疑似的な重力を与えていると考えることができるのです。このように、フォトニック結晶のデザインを拡張していくことで、将来的にはフォトニック結晶の中に、宇宙が表現できるようになるかもしれません。ナノ構造で宇宙、ちょっと面白いと思いませんか。
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