令和元年度 大学院大学院工芸科学研究科 入学宣誓式(秋季)
学長祝辞

森迫清貴学長の祝辞 

 京都工芸繊維大学に新しく大学院学生として加わる新入生諸君、また本学博士前期課程から引き続き博士後期課程に進学する学生諸君、本日皆さんととともに、この入学宣誓式を行えることは誠に喜ばしく、嬉しく存じます。
 本日ここに入学宣誓式を迎えられたのは、大学院博士前期課程24名、博士後期課程23名です。
 今年、本学は1949年の大学創立から70年、前身校の一つである京都蚕業講習所は1899年に設置されており、120年を迎えました。もう一つの前身校である京都高等工藝学校からは117年になります。
 大学院は修士課程として1965年に工芸学研究科が、1966年に繊維学研究科が設けられ、1988年に2つの研究科が統合されて、博士課程を持つ工芸科学研究科が設置されてから31年目を迎えました。この博士課程の設置に尽力されたのは第6代学長の福井謙一博士です。福井博士は、ノーベル化学賞を日本で初めて受賞された先生であることはご存じの方もいらっしゃるでしょう。
 工芸科学研究科の設置の趣旨には、「近年の科学技術の急速な進歩は、人間社会の発展と福祉の向上をもたらしたが、一面その巨大化、専門領域の深化・細分化等の傾向から、人間疎外等の問題が生じていることも見逃すことはできない。これからの科学技術は先端的分野の研究開発を一層進めると同時に、人間の真の豊かさの実現に資し、人間社会・自然との十分な調和が図られ高次元のレベルを志向していくべきことが強く求められている。このようなテクノロジーと人間との結びつきに係る分野は、いわばテクノロジーのソフトの面であり、そして今後においては、人間の感性の充実や精神的な潤い、自然の保全等と深く関係を強く意図した、より普遍性のあるテクノロジー、言うならば『ソフトテクノロジー』の実現を目指すべきことが必然的な方向になるものと考える。」とあります。
 この「工芸科学」の理念は30年前に創られたものですが、テクノロジーから一歩踏み込んで、人間の真の豊かさの実現を志向する言葉として「ソフトテクノロジー」を標榜したことは先見の明があったと思います。
 2015年の国連総会で、地球全体、人類社会全体にとっての未来像として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」、いわゆるSDGsが採択されました。そこには人類の未来に向けての17の目標とその具体的な取り組みとして169の細目、ターゲットが示されています。17目標には、例えば、貧困をなくすこと、クリーンで持続可能エネルギーの確保、産業と技術革新の基盤をつくることなどがあり、また、気候変動への対策を講じること、海の保全や生物多様性の維持なども掲げられています。SDGs は2030年までに実現することを目標としています。
 一方、日本政府は、目指すべき未来社会の姿としてSociety5.0を提唱しています。Society5.0とは、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)です。
 Society1.0は狩猟社会、Society2.0は農耕社会で、Society3.0が工業社会、Society4.0が情報社会ということですが、Society4.0では、知識や情報が必ずしも共有されず、分野横断的な連携が不十分であったことを省み、Society5.0では、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報を共用し、今までにない新たな価値を生み出すことで、一人一人が快適な社会となること、一人一人にとって幸せな社会を目指しています。
 目標が示され、どんな社会になりたいのかということから、研究・技術開発を進めるようなスタイルをバックキャスティングと言います。このバックキャスティングで抽出された課題解決志向に適した効果的な方法が、デザイン・シンキングです。本学では今年から全専攻対象の教育プログラムとして、デザイン・シンキングを培う大学院プログラムである「デザイン・セントリック・エンジニアリング・プログラム(dCEP)」が始まっています。皆さんも機会があればチャレンジしてみてください。その他にも、皆さんが大学院学生として尚一層成長できるように、ダブルディグリー・プログラム、国際ワークショップ、サマースクール、留学、インターンシップなどの機会も数多く用意されています。
 皆さんの大学院生活が充実し、輝かしい成果を挙げられ、そして成長されんことを祈念しています。頑張ってください。期待しています。

令和元年9月26日
京都工芸繊維大学
学長 森迫 清貴