令和2年学長年頭挨拶

 新年あけましておめでとうございます。
 年初という、極めてご多用の中、多数の皆様にご出席いただき、誠にありがとうございます。
 新年のスタートにあたり、皆様に年頭のご挨拶を申し上げたいと思います。

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 ご存じのように昨年は本学前身校の設置120周年、大学設置70周年でした。7月の記念式典には本日ご出席の皆様の中からも多数のご参加を賜りましたことを改めて御礼申し上げます。

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 今年元旦に、京都新聞に掲載した本学の新年広告です。日本経済新聞には1月7日に掲載されます。周年事業を機に、これまでより一段上で質の異なるステージに上がることを宣言しています。
 本学の前身校は明治32年の京都蚕業講習所、明治35年の京都高等工芸学校ですが、教育基本法、学校教育法の制定に伴って、前身校を引き継ぐ二つの専門学校を統合することにより、1949年に実学系新制国立大学として開学しました。1951年からは夜間開講で3年制の工業短期大学部を併設し、勤労学生の工学教育を担い始めました。

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 さらに1965、1966年に大学院修士課程として工芸学研究科、繊維学研究科の設置が認められ、繊維・化学産業、家電・機械自動車産業、建設業など日本の主要な産業分野に専門技術者を供給し、1970年の大阪万博を挟む高度経済成長に貢献してきました。

 そして、昭和末期の1988年、福井謙一学長の肝いりで工芸学研究科、繊維学研究科を統合し、博士前期・後期課程を備えた工芸科学研究科が設置され、学士、修士に加えて博士の学位が授与できる大学となりました。工芸科学研究科としての30年間に一万人を超える修士と千人を超える博士を世に送り出しています。本学も含めた理工学系修士が日本の産業発展に大きく貢献してきたことは皆様にも同意いただけるでしょう。しかし、一般的に、博士後期課程を修了した人材は果たして産業界に十分貢献できていたでしょうか。
 大学等で研究を続ける機会を持った博士は、直接的でなくとも何らかの貢献をしていると思いますが、必ずしも産業界から認めていただけるものではなかったかもしれません。これはこれまでの日本の大学の博士課程全般について言えるものではないでしょうか。

 本学に博士課程が設置された翌年1989年に昭和から平成という時代に入りました。昭和という高度経済成長の時代から低成長時代、少子高齢化が進む時代に突入した時期になります。バブル崩壊後から「失われた10年」そのまま「20年」、そして現在までの「失われた30年」となっています。この間、政財界から「大学は何をしていたのだ」、「大学は実業界から10年、20年、それ以上遅れている」、「日本の大学は、世界に完全に遅れをとっている」等々の声があることを皆様も聞かれたことがあるでしょう。大学を取り巻く状況はさらに厳しくなりました。

 平成の半ば、2003年に国立大学法人法が制定され、平成16年、本学も国立大学法人京都工芸繊維大学になりました。昨年末亡くなられた中曽根康弘元首相は国鉄民営化、小泉純一郎元首相は郵政民営化が政策として有名ですが、国立大学法人化も小泉氏が首相の時に為された政策です。国立大学として70周年を迎えましたが、国立大学法人としては15周年です。法人化によって6年間を一区切りとして中期目標を定め、それを達成するための中期計画を立てて大学を運営することになりました。

 本学は、法人化後、第10代江島学長、第11代古山学長の下、国立大学法人としての大学改革を小規模工科系大学であることを活かして、機動的に取り組んできました。複数の教育GP補助金、京都府立大学・府立医科大学との京都三大学教養教育共同化、府立の2大学に京都薬科大学を加えたヘルスサイエンスの研究連携、信州大学、福井大学との繊維・ファイバー工学コースによる連携教育、国立大学ミッション再定義などを推進しつつ、国立大学改革強化推進補助金、スーパーグローバル大学補助金、COC補助金、COC+補助金などを獲得し、夜間主コースの募集停止、組織改革を着々と進めてきました。そして京都府北部地域の産業、教育の活性化を図った地域創生Tech Programの開設、福知山キャンパスの開校、さらに、新しいニーズを発掘しそれを実装する産学公連携による大学院教育プログラムであるDesign-centric Engineering Program(dCEP)を開設しました。そうした取り組みの結果、まだまだ不十分なことも多々ありますが、現在、全国の国立大学法人の中で文部科学省や国立大学協会等から比較的良い評価が得られていることを私なりに実感しています。

 教職員の皆様には大変なご負担をおかけすることになっているかと思いますが、皆様のご理解、ご尽力のおかげです。学長としてお礼申し上げます。また、本日ご臨席賜りました本学と交流のある皆様方のご理解、ご協力に対しましても、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございます。
 この年度末に第3期中期目標期間の4年目が終わります。これから第3期の報告書の作成と第4期に向けた文部科学省との対話が始まります。これまでの取り組みも踏まえ、これからの本学のキーワードは、「産学公連携を基軸としたイノベーション」であると思います。

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 「文部科学教育通信」は文部科学省、文化庁、スポーツ庁に関係する国立大学、独立行政法人等の記事を掲載していますが、昨年の新年号に当時の柴山文部科学大臣の挨拶に引き続き、小生の学長インタビューが掲載されました。併せて、連載の依頼がありましたので、「産学公連携を基軸としたイノベーションの誘因」をテーマに、本学の諸先生に執筆をお願いしたものです。これらは、本学ホームページ(掲載ページ)でご覧いただくことができます。

 下は、国立大学協会の広報誌で12月に発行されたばかりなのですが、この号の特集が「文化・芸術が創造する未来の知」というものでした。建学以来、京都という地で文化・芸術と科学の融合について取り組んでいる本学の学長として、リーダーズ・メッセージを寄稿してほしいと依頼されたものです。国立大学協会のホームページに掲載されておりますので、ご興味がおありの方はご覧ください。
 ところで、本日は私が昨年知り得た本学学生の活動をいくつか紹介したいと思います。本学はご承知のようにTECH LEADERを養成することを目標にしています。

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 このスライド(上図)は何度もご覧になったことがあるかと思います。
 本学の学生人材として、専門性に関しては、産業界からの信頼もあるところですが、今話題の英語については「外国語運用能力」ということで、英語教員グループの頑張りによる「英語鍛え上げプログラム」によって、目に見える成果が上がっています。

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 また、留学については、「トビタテ!留学JAPAN」は官民協力の留学制度ですが、学生数で全国17位、関西3位です。
 その「トビタテ!留学JAPAN」を活用してアーヘン工科大学に留学した学生が、12月に開催した保護者・保証人向けの教育懇談会で、海外留学の経験を発表してくれました。彼は、海外留学の意識が高く、本学の語学研修にも参加しています。今年、博士後期課程に進学することになっています。実にしっかりとしたプレゼンで会場からの質問にも的確に応えていました。

 次に、学生フォーミュラチームをご紹介します。昨年11月に報告に来てくれました。昨年8月に開催された日本大会では最終走行時にエンジンがストップしてリタイアとなってしまい、8年連続の完走が出来ず17位だったそうです。大会後、抜本的な見直しをしっかり行い、企画書を作って報告に来てくれました。毎年企画書を持って報告に来てくれています。海外からも強豪が多数参戦する本大会で、本学チームは常に上位の成績を収める優勝候補で過去3度総合優勝に輝いています。学生フォーミュラ世界ランキングでは、621チーム中、現在3位で、日本のチームでは最上位につけています。

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 一昨年にもテレビ放送がありましたが、今日も関西テレビ「よ~いドン!」で取り上げられ、見事、「となりの人間国宝さん」に認定されました。設計から製作、解析シミュレーションなど、ものづくりをまさに実践しています。また機械工学、電子システム工学、応用化学、デザイン・建築学の学生が参加していますが、それぞれ役割を持ったワークグループをつくって運営しています。チーム運営の難しさも体験しているとのことです。「学生と教員の共同プロジェクト」として大学も支援していますが、彼ら自身もスポンサーを回り頑張っています。

 また、機械工学系東先生とロボティックス研究室の学生達が、「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」に出場し、「マルチコプタ部門」で優勝に輝きました。
 さらに、学生と教員の共同プロジェクトの1つである「~環境・エネルギー教育普及プロジェクト~TeCh Lover」の学生代表である学生が、教育懇談会で活動を発表してくれましたが、2年前のオープンキャンパスで会ったときの印象と全く変わっていて、実にたくましくなったと感じました。リーダーシップ科目を履修したことが大きかったと言ってくれました。

 学生へのリーダーシップ教育の効果は、他にも現れてきています。本学と京都府立大学、京都府立医科大学の三大学において、教養教育の共同化を行っていますが、その授業をより良くするにはどうすればよいかを議論する、という企画を、学生達が主催していました。活動の様子を見に行きましたが、本学前田学部長や先生方の参加も得て、自主的に進められ、具体的な提案には至りませんでしたが、良い試みだと感心しました。

 また、本学が博士人材育成に力を入れようとしているのを感じてくれたのか、博士後期課程の学生が中心となって、自主的に進路選択のためのキャリアミーティングを開いていました。中身を知りませんので、何も言えませんが、これを知ったときは嬉しく思いました。

 本学では、今後、TECH LEADERに加えて、「産学公連携を基軸としたイノベーション」を誘因する博士人材の能力目標として、①社会的課題解決に有効な“知の構造化”を牽引する力、②異分野融合と超階層による“飛躍的な価値創造力”、③価値デザイン主導のデータ・サイエンスの素養、④社会的ニーズに応える革新的なコンテンツを実装するための研究計画書、実用化計画書、事業化計画書の立案能力を掲げようと思っています。

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 年頭挨拶の締めくくりとして、今年のいくつかの行事予定をご紹介しておきます。
 今年は、令和の2年目、2020年、東京で2度目のオリンピック、パラリンピックが開催される年です。夏のオリンピックとしては56年ぶりの日本開催です。これに併せて、京都では芸術と科学の融合をテーマに掲げたアートフェスティバル「KYOTO STEAM-世界文化交流祭-」が3月に岡崎地区を中心に開催されます。STEAMとは、Science、Technology、Engineering、ArtsそしてMathematicsですが、アートとサイエンス・テクノロジーをテーマに開催される新しい文化・芸術の祭典です。

 本学も3月27日から3日間みやこめっせで「京都ビエンナーレ KYOTO Shaping the Future」と題する未来型の都市体験展示を行います。また同時期、3月21日の京都市京セラ美術館のリニューアルオープンに伴い、京都市立芸術大学、京都造形芸術大学、本学が館内にスペースをいただき、本学は、大学院プログラムであるdCEPの取り組み課題の一つ「和楽庵サイバーハウス化プロジェクト」を展示することになっています。これは南禅寺別荘地にあった武田五一設計の洋館を本学に移築するに際し、その洋館を、文化財価値も踏まえつつ、IT、AI技術を導入した近未来的ハウスの実験施設に変貌させるプロジェクトです。

 武田五一の胸像は本学3号館の北にあります。この胸像が見守る位置に和楽庵を移築します。和楽庵は1905年まさに京都高等工藝学校設立時に、実業家稲畑勝太郎が所有した南禅寺の別荘に名付けられた名前で、この洋館は1916年、大正5年に完成し、その後何度か増改築がされています。

 dCEPは専攻分野横断、企業連携による授業科目であり、和楽庵プロジェクトには電気電子工学、情報工学・人間科学、繊維学、デザイン・建築学の大学院生、教員、複数の企業が参加しています。単なる省エネとかIoT利用による便利さとかとは異なる、非常に面白いものになりそうです。是非、みやこめっせの「京都ビエンナーレ KYOTO Shaping the Future」共々ご覧いただければと思います。この「和楽庵サイバーハウス化プロジェクト」や、医工連携プロジェクトなども含めた、dCEPで取り組んだ成果については本年6月に予定しています開学記念事業で報告することになっています。この日には、昨年に引き続き、本学のこれからの取り組みにふさわしい記念講演も予定していますので、是非ご参加ください。

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 私は就任以来、現在の日本産業、地域や社会の環境、国立大学法人の置かれた状況から、工科系大学としてこれまでの日本には見られなかったほどの産学連携、産学協働の大学を実現したいと念じてきました。もちろんそれを成し遂げるためには、京都府・京都市などの行政や公的機関、また金融機関等との連携・協働も不可欠です。国からの税金による運営費交付金、学生さんからの授業料等が現状のままであるとすると、これからの大学運営は、正直、やっていけません。大学という枠に籠って静かに学生が教育・指導を受け、教員が教育研究に勤しみ、職員がそれらを支えるという構図は、「昔はよかった」という懐古趣味に過ぎなくなっています。

 明治維新、戦後復興の時以上に高等教育機関である大学の使命は重要です。社会イノベーションの核として、具体的にアイデアを出し、行動する必要があります。変えることは、完全に先が見通せない以上、不安要素はありますし、少なからず労力がかかります。より良くしようという目標が的確、適正であり、ブレが少なければ、一段上の、過去の世界とは異なる安定的な世界が見えるはずです。

 交通手段として車がなかった時代から、個人が車を運転するようになった現代、そして車そのものが変わろうとしている近未来、その時見える世界はきっと違ってきます。研究だって、そうではないでしょうか。目の前の課題解決によっても見えるものは違ってきますが、一段上のブレークスルーは視界を全く変えますよね。大学に関わる我々は、社会イノベーションの核とならんことを是非意識してください。
 教職員の皆様のさらなる意識ベクトルの変革が必要です。どうぞご理解、ご協力のほどを切にお願いします。また、本日ご臨席の皆様方にも、引き続きご理解、ご協力賜りますようお願い申し上げます。

 もうひとつ、美術工芸資料館で本日から開催される展覧会のご紹介です。(右画像をクリックすると、イベント紹介ページに移動します。)
エーアイではありません。エーエル、アルミニウムです。アートデザインを専攻する学生・大学院生が、所属する大学の枠を超えて一般企業との連携により作品を制作することを通して、自らの制作と社会との関わりを体験し、社会性のあるアーティスト、デザイナーを養成することを目的としています。東洋アルミニウム株式会社の協力を得て作成したものだそうです。お帰りに是非お立ち寄りください。

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 最後になりましたが、皆様のご健勝とご活躍を祈念して、2020年、令和2年の年頭の挨拶とさせていただきます。今年一年、どうぞよろしくお願いいたします。