オープンキャンパス2022研究室紹介(応用生物学課程)

応用生物学課程の研究室(14グループ)の概要を紹介します。
もっと詳しく知りたい方は、応用生物学課程のホームページもご覧ください。

生体分子機能学教育研究分野  (片岡 孝夫、川口 耕一郎、市川 明)
【研究テーマ】炎症・低酸素応答の選択的制御・加齢性疾患発症の分子機構解析・有用モノクローナル抗体の開発
【キーワード】炎症反応/バイオプローブ/加齢性疾患/細胞老化/カテキン/モノクローナル抗体

 微生物や植物が産生する小分子化合物は、多種多様な生理活性をもち、医薬品だけでなく、研究ツール(バイオプローブ)としても重要です。本教育研究分野では、がん、炎症性疾患、生活習慣病等の治療や予防への貢献を目指し、新規のバイオプローブの探索と作用メカニズムの研究に取り組んでいます。
 加齢により蓄積した老化細胞が、周辺組織に慢性的な炎症状態を惹起し、様々な加齢性疾患の発症に関与することが近年明らかになってきました。本教育研究分野では、加齢性疾患の基盤病態である慢性炎症に着目して、炎症性シグナルの制御による加齢性疾患の予防・治療を可能とする分子基盤の確立を目指しています。
 緑茶カテキンの生理活性発現メカニズムの解明を目指し、緑茶カテキン受容体に対するモノクローナル抗体を作製し、緑茶カテキンの細胞に対する作用メカニズムの解析を行なっています。また、新規有用モノクローナル抗体の作製も目指しています。

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微生物工学教育研究分野  (鈴木 秀之、井沢 真吾)  ※「微生物工学教育研究分野」の紹介動画はこちら
【研究テーマ】微生物の代謝と環境応答に関する基盤および応用研究
【キーワード】代謝制御/バイオコンバージョン/ストレス応答

 微生物の代謝や生理に関する基礎的な研究とそこで得られた知見を有用物質の生産や環境の保護に結びつける応用研究を通して、私たちの生活をもっと豊かに、快適にすることを目指しています。具体的には、
1)「生物細胞にとって還元剤や解毒剤の役割を果たしているグルタチオン」と「細胞が活発に生育するのに必要なポリアミン」のバクテリアにおける代謝機構(代謝制御)
2)再生可能なバイオマスから効率的に物質生産するために必要な微生物の育種
3)微生物酵素を用いた呈味性の改善
4)酵母のストレス耐性機構
について研究を行っています。基礎から応用にいたる幅広い視野を持った人材の育成を目指しています。

植物分子工学教育研究分野  (半塲 祐子、北島 佐紀人)  ※半塲 祐子教授の紹介動画はこちら
【研究テーマ】環境ストレスに対する植物の抵抗性機構の生理学、分子生物学
【キーワード】乾燥/病原体/防御機構/植物/遺伝子

 植物は地球上のすべての生物に欠かせない存在であり、食料や、地球環境問題を解決するバイオ燃料等の原料としても重要です。
 本教育研究分野では、植物のもつ様々なはたらきについて、生化学・分子生物学的レベルから生理生態学的レベルで研究を行っています。私達は光合成のときに二酸化炭素が植物に吸収される過程に注目して、「葉の内部のつくり」や「葉の内部にあるタンパク質」がどのように二酸化炭素の運搬にかかわっているのかを調べています。
 また、植物を襲う害虫やカビに対しては、地球にやさしい天然の農薬といえる、植物が作る殺虫タンパク質や抗菌成分などの新しい防御物質を探して、その作用機構を調べ、農業への応用を目指します。
 なお、半塲教授の研究テーマは2020年9月に本学の注目研究として紹介されました。

生体機能学教育研究分野  (宮田 清司、吉村 亮一、Kurganov Erkin)  ※Kurganov Erkin助教の紹介動画はこちら
【研究テーマ】脳幹によるホメオスタシス維持機構
【キーワード】Brain stem/Neural stem cell/TRP/TLRs/Microglia

 視床下部や延髄などの脳幹は、体温、体液、血圧のホメオスタシス、食欲、嘔吐、睡眠など身体に不可欠な機能を持っています。
 本研究室では、ほとんど機能解明が進んでいない脳幹における神経幹細胞の意義について調べています。まず、脳幹の脳室周囲器官が脳と血液情報の直接的コミュニケーションによりホメオスタシスを維持する機構を調べています。次に、脳幹にある神経幹細胞が新しい細胞を生み出すことでホメオスタシス維持に働くだけでなく、脳の疾病後の修復に大きな働きをしていることを調べています。
 私達の研究から、新しい脳の機能について理解が進み、医学・薬学・生命科学の発展に貢献できることを期待しています。
 なお、宮田教授の研究テーマは2021年5月に本学の注目研究として紹介されました。

生体行動科学教育研究分野  (野村 照夫、来田 宣幸)
【研究テーマ】身体運動・生体行動現象の計量化とその評価
【キーワード】ヒト/測定評価/応用バイオメカニクス/認知情報科学/身体運動

 研究の対象は主にヒト(人間)です。スポーツの場面や日常の生活場面などあらゆる場面でヒトは身体を動かし、行動をおこなっています。ヒトの行動を生理学的、バイオメカニクス的、心理学的な様々な手法を用いて測定・評価し、統計学に基づいた解析を通してヒトの身体や機能の仕組みの解明に取り組んでいます。
 人間の行動(Human Performance)には多くの謎や不思議が潜んでいて、この謎に対して、身体の機能(骨格、筋、神経など)、行動を制御する機能(神経-筋機能、呼吸循環機能、運動学習能力など)、行動に関わる環境(運動要因、体内要因、心的要因、社会的要因)の3つの観点から、総合的な研究を進めています。
 なお、基盤科学系深田教授との共同研究は2020年3月に本学の注目研究として紹介されました。

構造生物工学教育研究分野  (志波 智生)
【研究テーマ】寄生虫や細菌の生存に必須なタンパク質の構造生物学的研究
【キーワード】寄生虫/X線結晶構造解析/ドラッグデザイン

 タンパク質は生命現象の中心的な役割を果たしている生体高分子です。本教育研究分野では、タンパク質の立体構造をX線解析で決定し、タンパク質がどのように働いて機能を発揮するのかを分子レベルで明らかにすることを目指しています。同時に、タンパク質の立体構造をドラッグデザインにつなげるための応用研究も行っています。
 主な研究対象は南米のシャーガス病やアフリカの睡眠病の原因となっているトリパノソーマ原虫、赤痢アメーバやトキソプラズマ原虫のタンパク質です。これら寄生虫の生息に必須のタンパク質の立体構造を明らかにし、その立体構造に基づいて抗寄生虫薬につながるタンパク質の阻害剤を論理的に発見することを目指しています。

昆虫工学教育研究分野  (小谷 英治、高木 圭子)  ※高木 圭子准教授の紹介動画はこちら
【研究テーマ】昆虫の性質の改変と応用
【キーワード】カイコ/遺伝子組換え/甲虫/昆虫ホルモン/タンパク質発現

 昆虫および昆虫ウイルスの機能を利用したバイオテクノロジーに関する教育・研究に取り組んでいます。その一つとして、カイコの染色体遺伝子を人為的に組換えるトランスジェニック技術を用い、新しい有用性を付加したカイコを作り出す研究を行っています。特に、細胞の増殖や分化を制御するタンパク質を含む繭や絹繊維の開発、新しい性質を持つ絹タンパク質やセリシンの開発により、組織工学に貢献できるバイオテクノロジーに取り組んでいます。
 また、将来の、より広範な昆虫利用を念頭において、甲虫(コクヌストモドキ)をモデルとして、細胞死や生殖細胞の発達などがステロイドホルモンによって制御される機構の解明も行っています。さらに、昆虫に感染するウイルスを有用タンパク質の大量生産に利用したり、ウイルス封入体機能をタンパク質工学に利用する応用研究を進めています。

昆虫生理機能学教育研究分野  (齊藤 準)
【研究テーマ】昆虫の多様な生存戦略に隠された生理機能の解明と応用
【キーワード】昆虫資源/生理機能/色彩関連分子

 昆虫は多種多様な生物として、様々な自然環境に自らのライフサイクルを適応させることで進化し、今日の地球上で繁栄しています。昆虫たちの環境に対する適応力に注目し、彼らの生存戦略にひそむ様々な生理機能の解明を目指しています。
 本教育研究分野では、植食性幼虫の色彩の発現に関わる色素の生合成機構と色素結合タンパク質の生理機能の解明、幼虫から蛹への変態期における幼虫表皮タンパク質のリサイクルシステムとその分子機構の解明を進めています。

染色体工学教育研究分野  (吉田 英樹)
【研究テーマ】疾患モデルショウジョウバエの開発及びmRNAの細胞内局在の解析
【キーワード】ショウジョウバエ/疾患/mRNA細胞内局在

 遺伝学や発生工学の手法が豊富なショウジョウバエをモデル生物として、遺伝子の機能発現の機能解析といった基礎研究から、ヒト疾患のモデル系となるショウジョウバエ系統の作出と、その系統を用いた疾患の発症機構の解析及び治療薬のスクリーニングなどの応用研究まで行っています。
 転写されたmRNAは翻訳されタンパク質として機能します。これまで、タンパク質は翻訳された後、必要な領域へ輸送されると考えられてきました。
 しかし最近の研究から、翻訳される前に、タンパク質として機能すべき領域へ予め輸送されるmRNAが数多く存在し、そのmRNA輸送の重要性が明らかになりつつあります。本研究分野では、ショウジョウバエの培養細胞や生体を用い、mRNAの輸送機構の解明も目指しています。

応用ゲノミクス教育研究分野  (伊藤 雅信、加藤 容子)
【研究テーマ】真核ゲノムの可塑性と形態形成における発現調節
【キーワード】トランスポゾン/雑種不妊遺伝子/精子貯蔵/形態形成/テロメア

 これまで細分化の一途をたどってきた生物学の各分野が、「遺伝子」や「ゲノム」の視点によって統合され、生命の理解が大きく発展しつつあります。本分野ではカイコやショウジョウバエなどの昆虫を材料として、
1)転移因子(動く遺伝子)の制御機構とその生物学的意義
2)遺伝的多様性の生成と維持機構
3)性的二型に関与する遺伝子システム
4)塩基配列の変化をともなわない表現型の制御機構(エピジェネティック制御)
などの解明に取り組んでいます。真核生物の遺伝システムを探求するとともに、遺伝子改変生物作出や生物多様性の保全などへの応用を目指しています。

生物資源フィールド科学研究部門 資源昆虫学教育研究分野   (秋野 順治、長岡 純治)
【研究テーマ】資源昆虫の持続的利用、生殖制御と化学生態学的な行動生態制御に関する研究
【キーワード】害虫防除/真社会性昆虫/化学交信/有用物質利用/精子成熟カスケード/無細胞タンパク質合成系

 100万種を超える昆虫は、環境に適応した多様な特性を示し、ヒトが持続的な環境利用を図る際に応用可能な能力を有しています。私達はその特性や能力に着目し、
1)アリ・シロアリの社会生活の維持基盤や異種との相互作用の解明
2)植物による訪花昆虫や捕食性昆虫の行動制御の機構を解明し、環境に優しい害虫管理と有用昆虫の利用技術の開発を目指しています。
 また、カイコガを主対象として
3)生殖制御に役立つ精子成熟機構を解明し、精子の冷凍保存や人工授精による昆虫資源の維持管理技術開発へと繋げると共に、
4)無細胞タンパク質合成系を構築することで医薬品生産への活用を図るなど、新蚕業の創出を目指しています。

生物資源フィールド科学研究部門 資源植物学教育研究分野  (堀元 栄枝)
【研究テーマ】資源植物の生態と栽培、環境保全・循環型生物生産に関する研究
【キーワード】物質循環/収量構成要素/雑草防除

 当研究室は自然豊かな嵯峨キャンパスにあります。広い圃場に食用作物、工芸作物、飼料作物などの有用な植物を栽培し、それらの生理生態機能を調べるとともに、栽培管理法についても研究しています。
 人類が直面している食糧問題や資源エネルギー問題の解決のためには、化学肥料や農薬の過度の使用や土壌の劣化などの環境問題をもたらすことなく、作物を安定的に栽培し持続的に利用していくことが必要と考えます。そのような観点から、作物栽培と土壌生態系との関係、農業生態系における物質循環、作物や雑草の植生による土壌の評価、未利用資源を活用した作物栽培法などのテーマに取り組んでいます。

ショウジョウバエ遺伝資源研究部門 進化ゲノム学教育研究分野  (高野 敏行、都丸 雅敏、佐貫 理佳子)
【研究テーマ】ショウジョウバエを用いたゲノム機能学・進化学
【キーワード】ゲノム進化/精子形成/超保存配列/配偶行動/種分化/希少・未診断疾患/神経変性/老化

 生命活動は正確であるとともに頑健(ロバスト)でなければなりません。遺伝子の調子がちょっと悪かろうが、間違いが起ころうが、少々の逆境にもへこたれないシステムがゲノムの中に構築されています。
 一方で、生命は進化することを止めることもありません。環境に適応する進化能を併せもちます。遺伝学、分子・細胞生物学などのウエットな実験と集団遺伝学はじめ理論生物学とコンピューターシミュレーションを駆使したドライな解析の両面から、頑健性と適応という一見相反する生命現象を支える遺伝子と細胞の働きを明らかにします。

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昆虫バイオメディカル研究部門 バイオメディカル学教育研究分野  (井上 喜博)
【研究テーマ】ショウジョウバエを用いた細胞分裂と癌化に関する発生生物学研究
【キーワード】細胞周期/細胞分裂/造血器腫瘍/ 老化/自然免疫

 癌やダウン症などの遺伝病に関連した遺伝子の中には、細胞分裂やシグナル伝達の制御に関わるものが少なくありません。そこでそれらの病気の発症機構を理解するために、遺伝子研究に適したショウジョウバエをモデルにして、細胞分裂に伴う核膜や微小管構造の変化、染色体やオルガネラの動態、細胞質分裂、増殖シグナルの伝達機構について最新の細胞生物学的解析法により研究しています。
 さらにショウジョウバエのモデルを用いて、抗腫瘍効果あるいは抗老化作用のある天然物や化学物質の同定を国内外の大学との共同研究により進めています。昆虫を使った基礎研究の成果をヒト疾患や老化メカニズムの理解に役立てることを目指しています。

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