電気電子工学系 比村治彦 教授の研究グループがネストトラップをプラズマ移送実験に用いる場合に予期せずに発生する不純物イオンの発生機構を解明しました

 本学電気電子工学系の比村治彦教授の研究グループでは、非中性プラズマ※1である電子プラズマとリチウムイオンプラズマをネストトラップ※2内で混合させて、2流体プラズマ状態を世界で初めて生成する実験を行っています。混合実験を行う際、ネストトラップ内にリチウムイオン以外のイオンが発生することが実験で観測されていたが、その発生機構は不明のままでした。今回、この発生機構を同定するために、包括的な実験、データ解析、シミュレーションを繰り返すことによって、ついにその発生機構が解明されました。この現象は、電子プラズマがネストトラップ内で移送される際、電位勾配によって加速されることで真空容器内の背景に含まれる残留ガスが電離され、イオンやイオン性分子になることが明らかとなりました。これらは不純物イオンになるため、これらの発生を抑制するための実験パラメータ領域も解明されました。これにより、不純物イオンが発生しない理想的な2流体プラズマ実験をネストトラップ内で行うことが可能になりました。さらに、本研究結果は、ネストトラップが用いられている先端物理学研究の一つ、反物質の生成実験にも大きく寄与します。
 この研究成果は、最先端の物理学を専門に取り扱う国際学術雑誌「Physics Letters A」に掲載されます。

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この研究成果は学術雑誌『Physics Letters A』(外部サイト)に2023年1月号に掲載されます。

  • 図①

    図1 ネストトラップにおける
    非中性プラズマの閉じ込め

  • 図②

    図2 蛍光板付きMCPから流れる
    2次電子電流の時間発展

(用語解説)
※1:非中性プラズマ
 電気的に中性ではないプラズマのことである。本研究では、電子のみから構成される電子プラズマと、リチウムイオンのみから構成されるリチウムイオンプラズマを扱っている。

※2:ネストトラップ
 電位井戸が入れ子構造になっているトラップである。図1に示しているような正の電位井戸がより長い負の電位井戸に内包される形と、その極性が逆の形がある。