分子化学系 布施 泰朗 准教授らの研究グループは、窒素キャリアガス(注1)に約9%のエチレンをドーパントとして添加することで、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)(注2)の感度をヘリウム使用時と同等レベルまで回復させる新しいイオン化法「Energy Shuttle(エネルギーシャトル)イオン化」(注3)を提唱しました。この手法は、エチレン分子がイオン源内でエネルギーの能動的中継者として機能する「3体以上の連鎖的衝突によるエネルギー伝播」という新しい物理メカニズムに基づくものです。本手法は日本発の新しいイオン化原理の提案です。本成果は、深刻化する世界的ヘリウム枯渇危機に対する実用的解決策を提示するとともに、LC-MSやCVD分野への波及が期待されます。

本件の詳しい内容はこちら(PDF)
本研究成果は、2026年2月13日付で学術雑誌『Communications Chemistry』(外部リンク)および2026年3月27日付で『Journal of Chromatography A』(外部リンク)にオンライン掲載されました。また、関連する技術について2件の特許を併せて出願しています。
【用語解説】
注1)窒素キャリアガス
ガスクロマトグラフにおいて試料を分離カラム中で運搬する不活性ガス。従来はヘリウムが標準であったが、近年急速に枯渇が進んでいる。窒素は大気の約78%を占めほぼ無尽蔵に利用可能だが、質量分析の感度がヘリウムに比べ大きく低下する課題があった。
注2)ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)
混合物中の化学物質を分離(ガスクロマトグラフ)し、各成分を同定・定量(質量分析)する装置。環境汚染物質の検出、食品安全検査、臨床検査、法医学鑑定など幅広い分野で使用されている。世界で5万台以上が稼働しており、従来はヘリウムをキャリアガスとして使用することが標準であった。
注3)Energy Shuttle(エネルギーシャトル)イオン化
本研究で提唱された新しいイオン化メカニズム。エチレン分子が、短寿命の窒素イオンからエネルギーを受け取り、長寿命の中間担体イオンとしてそのエネルギーを目的分子へ「シャトル(運搬)」する3段階の連鎖的衝突過程に基づく。「衝突がエネルギーを散逸させるのではなく中継する」という概念は従来のイオン化理論にはなく、新しい物理理論体系として提案された。
【このページに関する問い合わせ先】
総務企画課広報係
TEL:075-724-7016
E-mail:koho[at]jim.kit.ac.jp(※[at]を@に変換してください)