令和8年度 入学宣誓式 祝辞

 京都工芸繊大学に入学された皆さん、そして大学院に入学・進学された皆さん、本日は誠におめでとうございます。また、これまで皆さんを温かく支えてこられたご家族ならびに関係者の皆様に、本学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。本日は、皆さん一人ひとりにとって、新しい学びの道が始まる日です。同時にそれは、自らの可能性を広げ、未来へと歩み出す大切な第一歩でもあります。

吉本昌広学長の祝辞

 本学は、幅広い教養と高い倫理性を備え、構想力と遂行力、そしてリーダーシップを発揮しながら、産業や社会、文化の発展に貢献できる国際的な工科系高度専門技術者の育成を目指しています。本学では、このような人材を「TECH LEADER」と呼び、「個の確立」に加え、「専門力」「外国語運用能力」「リーダーシップ」の3つの能力を備えることを期待しています。

 まず、専門力についてお話しします。専門力は、TECH LEADERの基盤となるものです。学部に入学した皆さんは、これからそれぞれの専門分野において、その基礎を着実に築いていくことになります。

 専門分野の学びの中では、日常の感覚から大きく離れた理論や概念に出会うことがあります。理解に苦しみ、自分はこの分野に向いていないのではないかと不安に感じることもあるかもしれません。例えば、私の専門である電子工学の分野では、日常の感覚とは大きく異なる量子力学という理論が重要な役割を果たします。私自身も学生の頃、その理解に苦労しました。しかし、卒業研究などを通して、量子力学によって説明できる現象を実際に体験する中で、少しずつ理解を深めていきました。

 専門力の習得は、基礎トレーニングによって体力を養う過程によく似ています。地道な努力の積み重ねが、やがて確かな力となっていくのです。このような経験は、偉大な研究者であっても例外ではありません。日本人で初めてノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹も、学生時代、当時最先端であった量子力学の理解に苦労し、自分は物理学に向いていないのではないかと悩んだと伝えられています。

 その経験を乗り越えた湯川は、著書『創造的人間』の中で、受け身ではなく、未来に希望を持ち、自発的にわからないことをわかろうとする努力が、創造性につながると述べています。そのような積み重ねが創造性の源になるとしています。核心となる問いを自ら見いだし、自ら考え続けてこそ、新しい知識や価値が生まれていくのです。この姿勢は、新しい価値を生み出すイノベーションにおいても重要な示唆を与えてくれます。

 特に現在、急速に発展し普及しつつある生成AIは、「専門力」の在り方にも新たな問いを投げかけています。人工知能は膨大なデータをもとに推論を行うことができますが、その結果を評価・選択し、社会の中で価値あるものとして活かしていくのは人間です。さらに人間は、予測困難な事態や前提条件が大きく変化する状況においても判断を下す力を持っています。だからこそ、皆さん一人ひとりが自ら問いを立て、自ら考え続けることが、これからの時代にいっそう重要になるのです。

 次にリーダーシップについてお話しします。工学は、人のためにあり、人との関わりの中でこそ磨かれ、社会の中で活かされます。TECH LEADERにとって、リーダーシップは社会の中で力を発揮するための重要な能力です。

 経営学者ピーター・ドラッカーは、リーダーシップは特別な資質ではなく、誰もが学び身につけることのできる能力であると述べています。外向的な人も内省的な人も、多弁な人も寡黙な人も、リーダーとなることができるのです。大学には、課外活動、実習、研究室活動など、リーダーシップを養う機会が数多くあります。失敗を恐れず、ぜひ積極的に挑戦してください。

 もう一つの重要な能力が外国語運用能力、とりわけ英語力です。英語力は、異なる国や文化を背景に持つ人々と対話し、協働していくうえで不可欠な力です。本学の英語鍛え上げプログラムは、国公私立大学の中から選ばれた4つの優れたプログラムの一つです。ぜひ積極的に活用してください。また、本学には海外インターンシップやサマースクールなど、多くの国際交流の機会があります。専門力と英語力を磨き、ぜひ世界へと視野を広げてください。そして、世界のさまざまな人々と学び、語り合い、協働する経験を通して、世界の中で価値を生み出すTECH LEADERへと成長してほしいと願っています。

 最後に、「個の確立」について申し上げます。学びは、本来、一人で完結するものではありません。疑問を抱き、問いを立て、周囲と語り合い、互いの考えをぶつけ合うことで、理解は深まり、視野は広がります。各自の専門を離れた教養科目も大きな助けになります。同級生や先輩、後輩、そして教員との交流を通して、多様な価値観に触れ、自らの考え方や人格を形成していくことこそが、TECH LEADERにとって重要な個の確立へとつながるのです。

 ぜひ、自らの専門分野の枠を越え、異なる分野の人々と交流し、多くの他流試合に挑んでください。その経験が、皆さんの視野を広げ、未来を切り拓く力となるはずです。

 これから始まる大学生活の中で、皆さんは多くのことを学び、多くの人と出会い、多くの挑戦を経験することでしょう。その一つ一つの経験が、皆さん自身を形づくり、やがて社会に新しい価値を生み出す力となっていきます。

 本学での学びを通して、自ら問いを立て、自ら考え、自らの未来を切り拓く人材へと成長してください。そして将来、社会のさまざまな場面で、新しい価値を創造するTECH LEADERとして活躍されることを心から期待しています。

 新入生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。

令和8年4月6日
京都工芸繊維大学長
吉本 昌広