基盤教育

専門の枠を超えて:リベラル・アーツ(liberal arts)の世界

京都工芸繊維大学に入学することは、各々の課程や専攻に所属することを意味します。それは、各々の課程や専攻独自のカリキュラムに沿って、特定の知識を深く習得することでもあります。しかし、どの分野で学ぶことになっても、卒業や修了にあたっては、さらなる広い世界に出て行くために、単に専門の知識や技術を備えるだけでなく、一人の人間として、地球環境問題から社会問題に至るまで、私たちが日々直面している問題に幅広く精通し、それらに対する柔軟な思考力や自律的な判断力を持つようになることが求められます。そのためには、自然科学や工学における事象を数理的に分析し推論する能力に加えて、科学技術の成果が自然や社会に及ぼす正負両面の影響を総合的に評価し、その意味を解釈する力が必要になります。また、そのようにして得た知識を他者と共有し、様々な問題を他者と討論していくためには、正しい日本語能力とともに、国際的に通用する外国語能力やコミュニケーション能力も身につけていかなければなりません。

すべての学生が専門の枠を超えて身に付けるべきことを定めるという考え方は、本学の理念にも示されている通りですが、その源泉は、歴史的に見れば遥か二千数百年以上前の古代ギリシアに遡ります。宇宙の根源を数に見出し「三平方の定理」で有名なピタゴラス、数理を愛し、哲学的探求を対話形式に求めて学園アカデメイアを開いたプラトンに代表されるように、ギリシアの人々は、原理を学んで初めて身につけることができるものとして、算術、幾何、天文学、音楽をあげ、これらを「学ばれるべきもの」(マテーマタ)と呼びました。同時に他方、思考の基礎となる言語の構造と活用のための学科として、文法学、修辞学、論理学をも設定しました。やがてこれらは、中世ヨーロッパの大学における基礎学芸として「自由七科(リベラル・アーツ)」と呼ばれ、学生の習得すべき基礎学科となります。近現代においても、これらの思想を受け継いで、リベラル・アーツは特定の職業のためではない、自由で普遍的な学芸を意味し、言語・数学系、および人文・社会科学、自然科学の諸学科から成る教養を意味するものとされています。

基盤教育とは何か

言語教育科目、人間教養科目、専門基礎科目などはこういった観点から、全学的な視点で用意されているものです。平成18年4月より、これらの科目のうちの一定部分を「基盤教育」という名の下に、関係する教員が組織的な責任体制をとって実施することになりました。

基盤教育担当の教員が提供するのは、英語、ドイツ語、フランス語、中国語、日本語(外国人留学生科目)などの言語関連科目や、人文学、社会科学、数学、物理学、健康・スポーツ科学、および教育学等です。これらの一部は、教育職員免許や学芸員資格に関わる部分も含まれます。これらの科目の中には、最低取得単位数が定められていたり、専門科目を学ぶ上での基盤という意味合いから比較的早い時期の受講が期待されていたりするものもありますので、履修計画を立てる上では注意が必要です。

なお、専門課程・専攻と連携を図りながら、基盤教育担当教員の下で卒業研究・修士論文等の指導を受けることもできます。

高等教養教育:さらなる高みを目指して

上記の言語教育科目や基本教養科目は、専門課程に進む前に広く習得することが一般的ですが、本学では、これらに加えて、教育実践の支柱の一つとなっている「3×3」に対応する形で、博士前期課程(M0〜M2)を対象とした教養科目として、少人数制の「高等教養セミナー」が開講されています(詳しくは、シラバスや学務課HPを参照)。これは、基盤教育を担当している教員の専門分野を活かしたセミナー形式の授業であり、学生の立場からすれば、学部での学習を通して得た一定の専門知識を、改めてより広い視点から捉え直す機会となります。

視点を置く山の頂が高くなれば、より広く遠くを見渡すことができます。山を高くしようとすれば、裾野を広げなければなりません。
大学の門をくぐった学生に教養の世界の豊かな魅力を伝えること、そして専門知識を高めていく学生にさらなる裾野を広げるための場を提供すること、それが基盤教育の最大の使命です。

 

学部・大学院・センター