分子化学系 松尾和哉 助教らの研究グループは、ゼブラフィッシュ初期胚に備わった細胞分裂障害への抵抗性を明らかにし、その細胞メカニズムを特定しました。
個体発生においては、細胞分裂が効率良く、かつ精度を保ちながら起こる必要があります。このバランスを決める仕組みの解明は、生き物のからだ作りを理解する上で重要な課題です。本研究では、光で細胞分裂を操作する独自技術である光変換性分裂阻害薬*1によって、ゼブラフィッシュ胚が原腸形成*2期に、分裂異常への著しい抵抗性を獲得することを発見しました。さらに、胚内部の細胞増殖ダイナミクスを捉えるイメージング解析によって、初期胚に特有の「ファジーな」分裂異常監視機構が、分裂異常によるダメージを最小限に抑えつつ必要な細胞増殖率を保つ役割を果たすことを明らかにしました。
本研究成果は、あらゆる生命に確率的に起こる細胞分裂エラーに対して、細胞がどのように対処して確実なからだ作りを実現するのかについての理解を助け、がんなどの疾病リスクを抱える染色体異常細胞がどのように長期間からだに潜伏し得るのかに関するヒントを提供すると考えられます。
図1.光による細胞分裂操作により明らかにした、発生ステージに応じた分裂異常への抵抗性変化。原腸形成期前の胚では、紡錘体チェックポイントが作動せず、分裂異常に際して重篤な染色体コピー数異常により胚が致死的なダメージを受ける。一方、原腸形成期の胚は、不完全ながら効果をもつ紡錘体チェックポイントにより、分裂異常のダメージが軽減されながらも胚は細胞増殖を続けることが可能になる。この結果、原腸形成期の胚は、数時間に渡って続く大規模な分裂異常に対して高い抵抗性を示し、個体発生を完了することができる。
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本研究成果は、2026年3月23日付で『Communications Biology誌』(外部リンク)にオンライン掲載されました。
【用語解説】
*1 光変換性分裂阻害薬 … 細胞分裂期に複製染色体の運搬を担うモータータンパク質の特異的な阻害薬に、照射波長に依存して構造変化を起こす分子モチーフを付与することで、当てる光の波長によって細胞分裂期の染色体運動をon/off制御できるようにした化合物。本研究チームが先行研究で独自開発したもの。
出典:
Mafy et al., Photoswitchable CENP-E inhibitor enabling the dynamic control of chromosome movement and mitotic progression. J. Am. Chem. Soc. 142, 1763–1767 (2020).
*2 原腸形成 … 動物の初期発生において、単層構造の胚の一部において大規模な細胞運動による陥入が起こり、個体形成の基礎となる胚葉の分化が進行する現象。
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