平成28年度海外教育連携教員派遣報告
綿岡 勲 助教 (ウィーン天然資源大学)

所属 繊維学系
氏名・職名 綿岡 勲 助教
専門分野 高分子構造解析、糖鎖科学
期間 平成28年4月-平成29年3月
滞在先 ウィーン天然資源大学化学部(オーストリア)

BOKUについて

 Universitat fur Bodenkultur Wienは英語名University of Natural Resources and Life Sciences, Viennaと表記するオーストリアに13ある国立総合大学の一つで1872年に設立されました。正式な略称はドイツ語名称にちなみBOKUと表記します。日本ではウイーン天然資源大学(あるいはウイーン農業大学)と呼ばれています。BOKUは再生可能資源の教育および研究の中心機関として、天然資源の持続的可能な利用、水・土壌・大気などを含む再利用可能な資源の保護などを主要な課題に15のDepartment(学部)から構成されています。
 主要なキャンパスは3つあり、本部のある”Turkenschanze”キャンパスはウイーン18区に、”Muthgasse” キャンパスはウイーン19区に、”Tulln”キャンパスはウイーン郊外北西の町ツルンにあります。総学生数はおよそ12000人で、そのうち2000人がEU圏内の各国から、600人がそれ以外の国から留学してきています。アカデミックスタッフおよび事務スタッフはそれぞれおよそ1000人、500人で、京都工芸繊維大学のおおよそ3倍程度の規模になります。

“Muthgasse”キャンパス “Tulln”キャンパス

BOKUの教育カリキュラム

 3年間のBachelor(学部)、2年間のMaster(修士)、3年間のDoctoral(博士)のいずれのプログラムもそれぞれ決められたEuropean Credit Transfer System (ECTS、以降ECTS)の習得により当該学位の授与がなされます。このECTSはヨーロッパ共通単位システムといい、欧州内の他の大学においても取ることが可能です。すなわち他の大学へ行き受講したい授業を取ることも可能なシステムになっています。これらの成績評価はECTS grading scaleという欧州統一基準で行われます。
 学部プログラムは8つのプログラムがあり、原則的にはドイツ語で授業などが行われます。必要取得単位数は180ECTSです。修士課程の主たるプログラムはGerman Language Master programmesとEnglish Language Master programmesです。それぞれドイツ語あるいは英語での授業により単位を取得します。それ以外にInternational Master programmes(11の国際ジョイントディグリー(共同学位)プログラム)と既存のカリキュラムによらない特別に設定したカリキュラムで学位取得を目指すIndividual Master programmesがあります。博士課程プログラムでは4つのプログラムがあり、社会経済学プログラム、天然資源および生命科学プログラム以外にタンパク質生物分子技術プログラムと国際ナノバイオテクノロジー大学院プログラムがあります。
 BOKUにおける教育プログラムの特徴は自然科学、エンジニアリング、人文科学(経済や法学など)についてまんべんなく修得する必要があることです。具体的には、修士課程修了に必要な120ECTS creditのうちこの3分野についてそれぞれ15%以上のcreditを修得する必要があります。これはその3分野についてもある程度の見識を深めることがそれぞれの学位取得に必要であるという考え方によるようです。
 またこちらでは、研究室での研究活動は学部で1-2ヶ月程度、修士で1セメスター(半年)しか行われません。従って本格的な研究活動は博士課程に進学してからとなり、ここは日本の高等教育制度と大きく異なる部分です。

Tullnキャンパス

キャンパスで開かれた
ジャズフェスティバルの様子

 BOKUではDepartment of Chemistry, Division of Chemistry of Renewable ResourcesのThomas Rosenau教授のグループにお世話になっています。Department of Chemistryの本拠地は”Muthgasse”キャンパスですが、そこには我々の研究グループの実験研究室は数室しかなく、実験研究室の大部分は”Tulln”キャンパスにあります。そのため私も多くの時間をTullnで過ごしています。
 修士や博士課程の授業は”Muthgasse”キャンパスで行われますので、教員学生ともに授業のあるときには両キャンパスを行き来することになります。とはいえ、”Tulln”キャンパスからだと徒歩10分、快速列車20分、徒歩3分で”Muthgasse”キャンパスに着くので移動するのはそれほど大変ではありません。
 この”Tulln”キャンパスは1994年に大学内研究機関のために設置され、2011年に拡張されたもので、同一の建物内にAIT(Austrian Institute of Technology, オーストリア技術研究所)とBOKUが入居しています。BOKUでは我々のグループ以外に6つの研究室がこのキャンパスで研究を行っています。また同敷地内にはBOKUやAIT以外にも研究施設があり、産学連携拠点としての役割も担っています。そして地域に密着した施設として、子どもたち向けの科学体験や市民向けのコンサートやダンスパーティなどの行事も頻繁に行われています。

研究室

 Thomas Rosenau教授のグループでは、セルロースを基軸とした有機合成・化学変換・化学分析・構造解析を中心に行っています。このグループはおおよそ30名程度から構成されていて、5名の教員、1名の技術者、8人程度の博士研究員に、博士課程の学生からなります。修士課程の学生は1セメスターの間だけ所属します。また海外との交流も盛んに行われており、オーストリアのみならずヨーロッパ及びロシア、エジプト、モンゴルなどからも博士課程学生や博士研究員や客員教員として多くの方が来て、研究活動を行っています。
 週に一度のミーティングではほぼ全員が参加して研究室運営上の情報交換及び確認を行うとともに、論文発表内容についての報告などを行っています。個々の研究内容についてはグループの人数が多いためにそれぞれが担当教員と個別にディスカッションするスタイルになっています。研究活動の合間に、みんなで建物脇の広場などを使ったBBQや、エクスカーションに出かけるなどの行事をおこなうこともあります。
 研究グループはまたオーストリアの産学連携を支援する非営利団体であるクリスチャン・ドップラー協会が支援する産学連携プロジェクトのChristian -Doppler Laboratory “Advanced cellulose chemistry and analysis”にグループとして参画するなど、地域の産業との産学連携活動も盛んに行われていました。

化学実験室の様子 研究室メンバーとのBBQ風景

おわりに

 スーパーグローバル大学創成支援事業によりオーストリア滞在の機会をいただいたことに感謝いたします。