令和2年度 大学院工芸科学研究科 学位記授与式(秋季)
学長祝辞

 本日、修士あるいは博士を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。また、新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のため、残念ながら本日ご列席いただけなかったご家族の皆様、関係者の方々、また、研究を指導された教員の方々に対しましても、心からお祝いを申し上げるとともに感謝の意を表します。皆様から是非、学長がお礼を申していた、とお伝えください。

 さて、本学は1988年に博士課程を持つ工芸科学研究科を設置していますが、それ以来、これまでに11004名の修士学位と969名の博士学位を授与して参りました。本日は、修士学位11005号から11017号まで、課程博士970号から979号までの学位を授与いたしました。皆さんの新しい研究成果は、それぞれの分野において更なる展開のため、また技術革新や産業創出のためにも活用されることが期待されます。さらに皆さんに続く後輩たちの研究にも役立つことになるでしょう。

 今年は新型コロナウィルス感染症の世界的流行で、皆さんの研究にも多大な影響が生じたことと思います。予定していた実験や調査等が一部出来なくなった、など、研究計画の変更を余儀なくされた人もおられたのではないでしょうか。そのような状況の中で、博士論文あるいは修士論文をまとめられた皆さんのご努力に心より敬意を評します。

 新型コロナウィルス感染症の流行は、人類の感染症への課題の重要性について、改めて気づかされるものでした。感染症対策は、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに達成すべき目標である「持続可能な開発目標Sustainable Development Goals」、SDGsのターゲットの一つに挙げられています。感染症そのものの医療的対策はもちろんですが、新型コロナウィルスは、今回、人類全体、社会全体に、これまで想像もしていなかった様々な課題を突きつけました。経済活動を含めた社会のあり方、人々の暮らし方にまで影響を及ぼし、対応すべき課題を提示しています。当たり前だと思っていた様々なことを見直し、考え、英知を結集してより良い方向へ向かっていきたいものです。
 皆さんは大学院工芸科学研究科の課程を修了し学位に値する資格を得られました。博士学位、修士学位を有する皆さんは、今回の新型コロナウィルス感染症問題にかかわらず、人類、地球、社会、産業における新たな課題、未だ解決されていない様々な課題に対し、解決へ向けて、その目標、ゴールを予測し、そのために克服しなければいけないキーとなっている問題を考えてみることが重要です。さらに、プロセスを含めて、何をなすべきかを思考し、自らの専門分野における知識、力で取り組めること、あるいは他の分野の研究者や技術者と協力すれば出来そうなこと、を考えてみることは、具体的に実行に至らなくても意義のあることであると思います。また、皆さんの専門分野の視点で貢献できそうなことを考えてみることは、いつかどこかで自らの研究に役に立つかもしれません。あるいは人類に貢献しうる種となるかもしれません。
 学位を有する高度専門技術者、本学でいう「TECH LEADER」として、様々な課題に対し受け身ではなく、自ら解決への道筋を考えてみるということを心掛けていただきたいと思います。

 皆さんが提出された学位論文の内容・成果は、もちろん重要です。しかし、それ以上に大切なことは、その学位論文をまとめる際に行った実験や調査、論文執筆などを通じて、研究する力を身につけたあなた方自身なのです。そのことを今日、しっかりと自覚してください。博士になった、修士になったことがゴールではなく、その力をどう生かすかを考えるスタートに立ったということなのです。
 社会の様々な課題に対して、皆さんの考える力を駆使して、これからの人類社会の科学、産業、文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和2年9月24日
京都工芸繊維大学
学長 森迫 清貴