分子化学系 山田重之 教授らの研究グループは、従来とは異なる分子設計によって、目に見えない近赤外光(注1)まで吸収する新しい色素の開発に成功しました。
近赤外光を吸収する有機色素は、太陽エネルギーの有効利用など、さまざまな分野への応用が期待されています。しかし、従来の色素では吸収する光の波長を長くするために、高価な貴金属を含ませたものや、分子内のπ共役系(注2)を拡張する手法が広く用いられており、分子構造や合成工程が複雑になることが課題の一つでした。
本研究グループでは、反芳香族性(注3)と呼ばれる特徴的な電子性質を示す「フルオレニルカチオン骨格」(注4)と、電子を与えやすい「ジュロリジン骨格」(注5)を組み合わせることで、π共役系を大きく拡張することなく、近赤外域まで光を吸収する有機色素を開発しました。さらに、開発した色素に電子を与えるはたらきの強い置換基を導入した色素では 696 nm に吸収極大を示し、900 nm を超える近赤外域まで吸収が広がることを確認しました。実験と理論計算の両面から分子構造と電子状態の関係を明らかにし、近赤外光を吸収する有機色素の新たな分子設計指針を示しました。
本研究成果は、π共役系を大幅に拡張することなく近赤外光を吸収する有機色素を設計するための新たな指針となり、今後、近赤外光を利用する機能性材料や、周囲の環境に応じて光吸収が変化する材料の開発につながることが期待されます。
図1 対照化合物の色素(黒)と今回開発した色素(青:1a-ClO4,赤:1b-ClO4)の紫外–可視吸収スペクトル。横軸は光の波長、縦軸は吸収の強さ(モル吸光係数)を示します。赤い線の色素は696 nmに吸収極大をもち、吸収が900 nmを超える近赤外域まで広がります。いずれもジクロロメタン溶液中で測定しました。
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本研究成果は、2026年10月30日に国際学術誌『ChemPhotoChem』にオンライン掲載されました。
用語解説:
注1)近赤外光
人の目に見える赤色光よりも波長が長い光。一般に目で見ることはできません。本研究で開発した色素は、吸収が900 nmを超える近赤外域まで広がっています。
注2)π共役系
二重結合と単結合が交互につながり、電子が分子内の複数の原子に広がっている構造。一般に、このつながりを長くすると吸収する光の波長も長くなる傾向がありますが、分子の合成が複雑になる場合があります。
注3)反芳香族性
環状に並んだ電子(π電子)の数や結び付き方に関係する電子的性質で、一般的な芳香族性とは異なる電子構造を示します。本研究では、フルオレニルカチオン骨格に見られるこの性質を、色素の設計に活用しました。
注4)フルオレニルカチオン
中央に五員環をもつフルオレン骨格の9位に位置する炭素原子に正電荷をもたせた構造。本研究では、この骨格をつくることに伴う反芳香族性や分子の平面性の変化に着目しました。
注5)ジュロリジン
窒素原子を含み窒素原子上のアルキル基が近傍のベンゼン環と連結した構造をもつ有機基。窒素原子の周囲で結合の回転が制限されており、電子を与えるはたらきが強いことから、本研究では電子を供給する部分として利用しました。
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