平成30年度海外教育連携教員派遣報告
蓮池 紀幸 助教 (マテリアルセンターレオベン)

所属 電気電子工学系
氏名 蓮池 紀幸 助教
期間 平成30年4月9日-平成31年3月27日
滞在先 マテリアルセンターレオベン(オーストリア)
【はじめに】

平成30年4月から1年間、オーストリアのMaterials Center Leoben GmbH(MCL)のMicroelectronics部門でお世話になっております。MCLがあるレオーベンという街はオーストリア・シュタイヤマルク州にあり、首都ウィーンからは電車で2時間ほど南西に向かったところに位置しています。(写真1.はレオーベンの街並みです。)アルプス山脈の東裾に位置していることから、街の標高はおおよそ500m程度と比較的高地に位置し、周りを山々に囲まれた緑が豊かな街です。標高が高いため、夏場でも最高気温は30℃に届かない日があり、湿度も40%程度と低いためとても快適です。一方で、冬場は寒さが厳しく、まれに-20℃くらいまで下がる日があるそうです。降雪量はそれほど多くありませんが、11月中旬くらいに初雪が降り始めます。
 この街では林業と鉱山業が主な産業であり、郊外には大規模な製材所や製鉄所、鉄鉱石の採掘場があり、伐採した木材や鉄鉱石はその場で製材・製鉄され、工場まで引き込まれた鉄道を利用してEU各地に輸送されるそうです。街にはこれらの産業に従事する方が多く暮らされていますが、近年の鉱山業の衰退とともに人口の減少が進んでいるそうです。
 街の雰囲気はとてものどかで、皆さんとても親切に接して下さり、非常に治安の良い街という印象を受けました。天気が良い日は街の中心(Hauptplatz)のオープンテラスカフェでビールを楽しむ方がたくさん見受けられます。オーストリアはドイツ語が公用語ですが、ご年配の方を除き基本的に英語が通じます。特に、大学生くらいの若い世代の方々は英語がとても堪能です。街中にはチラホラとアジア系の方々を見かけますが、そのほとんどがレオーベン鉱山業大学に留学している中国人留学生の方だそうです。


写真1.レオーベン市内の写真

写真1.レオーベン市内の写真

【レオーベン鉱山業大学について】

街の中心にはレオーベン鉱山業大学(Montanuniversität Leoben)があり、学部および大学院(修士課程、博士課程)が設置されています。学部課程では、機械系や電気系、材料系などの一般的な学科の他に、地質学や鉱物資源学、鉱油エンジニアリングなど非常にユニークで街の産業と密接に関係する学部が設置されています。理工系の学部のみの単科大学なので、規模はそれほど大きくはなく、本学とおおよそ同程度の規模です。(写真2.はMontanuniversität Leobenのメイン校舎の正門です。)


写真2. Montanuniversität Leoben(レオーベン鉱山業大学)のメイン校舎の正門

写真2. Montanuniversität Leoben(レオーベン鉱山業大学)のメイン校舎の正門

【派遣先(MCL)での教育・研究活動について】

派遣先のMCLは厳密には大学ではありませんが、自社製品の生産・販売で経営を維持しているわけではなく、外部研究資金や企業との共同研究により運営されている研究機関です。レオーベン鉱山業大学やオーストリア内企業が共同で出資し設立した研究機関なので、レオーベン鉱山業大学と教育・研究の両方において非常に密に連携が取られています。(写真3.はMCLのMicroelectronics部門がある建物のエントランスです。)
 私がお世話になっているMicroelectronics部門では、名前の通りelectronics(電子工学)に関連する研究が行われています。部門内にはいくつかの研究グループがあり、各研究グループではグループリーダーの指導の下でレオーベン鉱山業大学やグラーツ大学、ウィーン大学などオーストリア内の他の大学のPh.D学生が研究を行っています。私はDr. Marco Delucaが主導する研究グループに所属しています。そこでは分光分析法を用いた強誘電体材料の結晶性評価に関する研究が行われています。当グループでは隔週で進捗状況の報告会があり、またMCL内の他グループ(コンピュータシミュレーショングループ)とも共同で研究が行われているため、グループディスカッションと合同ディスカッションが週替わりで開催されます。当研究グループには様々な国の研究者が在籍するため、基本的にディスカッションは英語で行われます。私は所属するPh.D学生との実験方法や実験結果の解析手法に関するディスカッションを通じて、英語による教育手法を学んでいます。Ph.D学生は各研究プロジェクトから給料をもらいながら研究を行っているため、アルバイト等をする必要は無く研究に集中できる環境が整っていると言えますが、一方で給料はプロジェクト主動で支払われるため、プロジェクト終了とともにポストを失う可能性があり、またプロジェクト中は常に成果が求められるため、日々実験や学会発表の準備に追われており、かなりのプレッシャーを感じている様です。
 レオーベン鉱山業大学との連携については、MCLスタッフの中には同大学で講義を担当している方もおられ、私がお世話になっているDr. Marco Delucaも同大学で“Modern optical methods for materials characterization”という講義を担当されています。私は彼のその講義のうち数回分を担当する機会を頂きました。大学での講義は基本的にドイツ語で行われますが、様々な国の学生が在籍していることもあり、講義で使用する言語は受講学生と担当教員の間で相談して決められる様です。私が担当させて頂いた講義は英語で行われました。また本講義には修士課程および博士課程の両方の学生が受講しており、学生の学問的バックグラウンドも様々であったため、講義内容については基礎的な部分から技術応用に至るまで広く浅く取り扱う必要がありました。また、本講義以外の講義(Surface PhysicsとModeling of Ceramics)にも特別聴講生として参加させて頂ける機会を得たため、講義の進め方などについて勉強させて頂いています。


写真3. MCLのMicroelectronics部門がある建物のエントランス

写真3. MCLのMicroelectronics部門がある建物のエントランス

【最後に】

今回の海外派遣では、スーパーグローバル大学創成支援事業ならびに国際課の方々には大変お世話になりました。また受入れ先のDr. Marco Delucaさんには現地での活動や生活に渡って多大なご支援を頂きまして心より感謝致します。また、不在中の業務でご支援, ご協力頂いた電気電子工学系教員の皆様ならびに電子・情報事務室の事務員の方々にはこの場をお借りして心よりお礼申し上げます。研究室の学生指導につきましては、応用物質科学グループの先生方および和歌山大学教育学部の木曽田賢治教授に厚くお礼申し上げます。