平成30年度海外教育連携教員派遣報告
西田 耕介 准教授 (スタンフォード大学)

所属 機械工学系
氏名 西田 耕介 准教授
期間 平成30年4月6日-平成31年3月31日
滞在先 スタンフォード大学(米国)

平成30年4月から1年間、米国スタンフォード大学機械工学科のHigh Temperature Gasdynamics Laboratory(Prof. Hanson Group)に客員研究員として滞在しています。スタンフォード大学は、当時カリフォルニア州知事で、大陸横断鉄道の一つセントラルパシフィック鉄道を創立したLeland Stanford氏によって、15歳の若さで早逝した一人息子のLeland Stanford Jr.の名を残すために1891年に設立されました。従って、大学の正式名称はLeland Stanford Junior Universityとなります。大学はサンフランシスコの南東約60km(車で約1時間)の場所に立地し、地理的、歴史的にもシリコンバレーの中心に位置しています。シリコンバレーには、Google、Yahoo!、Apple、Intel、Facebook、TwitterなどのIT関連企業をはじめ、テスラモーターズ、NASAエイムズ研究センターなどの大企業・研究機関が多数集結しており、スタンフォード大学の学生はこのような企業の中から有利にインターンシップ先や就職先を見つけることができます。キャンパスの広さは全米屈指(モスクワ大学に次ぐ世界第二位)で、その敷地面積は8180エーカー(3310ha=約33km2)と広大です(東京都杉並区とほぼ同じ面積)。キャンパス内には教会、ゴルフ場、美術館、スタジアム(5万人収容)、大型ショッピングセンター(大手デパートやブランドショップが多数入居)があり、景観も整っていて大学というよりは一つの街のようです。教職員や学生の通勤手段は自家用車、Uber・Lyft(スマホアプリ使用の配車サービス)、自転車、スケートボードなどさまざまで、また大学構内を走る無料シャトルバス(Marguerite)も利用できます。スタンフォード大学があるサンフランシスコ・ベイエリアの気候は、4月~12月までは乾季で雨は殆ど降らず、毎日雲一つない青空です。太平洋を流れる寒流の影響で夏でも涼しく、日差しは強いですが湿度が高くないので汗をかくことは殆どありません。1月~3月は雨季ですが、日本の梅雨のように1日中雨が降ることはめったに無く、朝夕のにわか雨程度です。


スタンフォード大学のMain Quad

スタンフォード大学のMain Quad


Apple本社(クパチーノ市)

Apple本社(クパチーノ市)

今回滞在しているのはRonald K. Hanson教授のラボで、衝撃波管を利用した高温・高圧燃焼ガスのレーザ計測をメインに取り組んでいる世界的に有名な研究グループです。私が工繊大で燃料電池内ガス流動のレーザ分光計測に関する教育・研究を行っていることもあり、ファイバ光学系やレーザ計測技術に関する知見や情報およびその教育方法を共有させていただくことはできませんか?とHanson先生にお願いしたところ、快く受け入れていただきました。研究室が入居する機械工学科の建物は、キャンパス中心のメモリアル・チャーチ(教会)のすぐそばにあり、ブックストアや郵便局、学食に近い好立地な環境です。研究室はPIのHanson先生の他、3名のResearch Engineers、3名のポスドク、21名の大学院生(うち16名はPh.D. candidates)が在籍しており比較的大所帯のラボです。なお、研究室に所属する大学院生にはスタンフォード大学の学部卒業生は一人もおらず、全員が他大学の学部出身者です。日本では学部卒業生の大部分が同じ大学の大学院に進学しますが、米国の場合は、学部とは異なる大学の大学院に進学するのが一般的のようです。


機械工学科の建物入口

機械工学科の建物入口

ラボでの日常の研究活動は、「Diode Laser Diagnostics Group(半導体レーザ計測グループ)」と「Shock Tubes and Chemical Kinetics Group(衝撃波管・反応速度論グループ)」の2つのグループに分かれて研究が進められており、学生はいずれかのグループに必ず属しています。研究室内の定期的なミーティング(いわゆる研究会)もグループ別で行われており、Diode GroupとShock Tube Groupのミーティングが隔週で交互に実施されます(毎週どちらかのグループミーティングが行われる)。各回のミーティングでは、初めに一人の学生が自分の研究に関連したトピック(文献調査等)を発表するFeature Presentation(10分程度)が行われ、その後、学生各自が取り組んでいる研究テーマについてResearch Discussionを行うスタイルです。Research Discussionでは、全メンバーが1~2枚のスライドを持ち込み、各自の研究テーマにおける現状の課題や問題点をメンバー全員で深く議論します。教員、研究員、学生が対等な立場で活発な討論が繰り広げられるのが印象的です。私はDiode Groupのミーティングに参加させていただき、初回は簡単な自己紹介と工繊大での研究プロジェクトについてプレゼンし、それ以降はレーザ計測の理論や測定原理を学生達に向けて教育したり、スタンフォード大学で立ち上げた研究テーマ(高温燃焼場レーザ計測用の光ファイバプローブの設計・開発(工繊大との共同研究として実施))を事例として紹介したりしています。当初、英語に不慣れなこともあって自分の研究を説明するだけで精一杯でしたが、最近では、他の学生の研究報告に対しても少しずつ指摘やコメント等の指導ができるようになってきたと実感しています。学会発表(Int. Symp. Combust.やAIAA ASM)の直前になると、ランチタイムの時間帯等を利用して学生によるプレゼンの予行演習会が行われます。学生が学会発表する際、事前に入念な準備を行うのは日本の大学もスタンフォード大学も同じですが、スタンフォードの学生はプロ意識が非常に高く、発表練習でも自信を持って話をしているのは立派だと思いました。また、発表後の質疑応答では、教員よりも学生のほうが活発に質問しているのが印象的で、日本の学生もこの点は大いに見習うべきと感じました。


研究室の様子(実験用の衝撃波管が何本も並ぶ)

研究室の様子(実験用の衝撃波管が何本も並ぶ)


研究室合同セミナーの様子

研究室合同セミナーの様子

授業終了後、課題に取り組む学生たち

授業終了後、課題に取り組む学生たち
(機械系建物のロビーにて)

カリフォルニア・ベイエリアでの生活については、基本的には車が無いと生活はかなり制限されます。サンフランシスコ市内はバスや地下鉄など公共交通機関は十分発達していますが、シリコンバレー周辺(サンマテオ~サンノゼ)まで南下すると交通機関はあまり発達していません。鉄道はサンフランシスコ~サンノゼ近郊を南北に走るCaltrain(通勤列車)がありますが、平日の通勤時間帯以外や週末になると本数は1時間に1本と激減します。私の場合、渡米後最初の1ヶ月は自転車通勤(片道20分)を頑張って続けましたが、何かと不便を感じたため5月に中古車(MAZDA3(日本名:アクセラ))を7,000ドルで購入しました。そのおかげで、休日にはサンノゼ近くの日系スーパーまで行って日本の食材を手に入れたり、アウトレットやユニクロに出かけたりすることができるようになりました。私が住んでいるパロアルト市は、スタンフォード大学に隣接した閑静な高級住宅街で、徒歩圏内にはスティーブ・ジョブズ(Apple創業者)やラリー・ペイジ(Google創業者)の自宅もあります。住環境は、安全性、利便性ともに抜群ですが、地価や物価は年々高騰しており日本と比べてもかなり高めです。パロアルト市の経済はシリコンバレーの経済動向に左右されており、全米でも最も物価(特に住居費)の高いエリアと言われています。アパートを借りるならば、Studio(ワンルーム)で2,500~3,000ドル/月、家族用の2ベッドルームだと3,000~4,000ドル/月くらいの家賃はかかります。そのため、単身で一定期間滞在する研究者や駐在員、留学生の多くは一軒家を何人かでシェアして暮らしているようです(シェアハウスでも家賃は1,000~1,500ドル/月程度かかる)。私は日本人オーナーが所有している一軒家の一室を運良く借りることができ、スタンフォード大学の研究者やポスドク、Googleやベンチャー企業で働く若者らとともに生活しています。

滞在も残すところあと1ヶ月となり、住居・オフィスの片づけや、携帯電話、銀行口座の各種手続き、車の売却など帰国の準備を始めているところです。今回の滞在がきっかけとなって工繊大とスタンフォード大学との共同研究や学生の交換留学がスタートできればと考えています。最後になりましたが、スーパーグローバル大学創成支援事業と国際課の関係者の皆様には大変お世話になりました。また、不在中の業務等でご支援頂いている機械工学系の先生方、研究室の学生諸君には心より感謝いたします。