令和4年度海外教育連携教員派遣報告
高橋 駿 准教授 (トゥエンテ大学)

所属 電気電子工学系
氏名 高橋 駿 准教授
期間 令和4年8月13日-令和4年11月10日
滞在先 トゥエンテ大学

はじめに

 私は、2022年8月13日から2022年11月10日までオランダのエンスヘーデ(Enschede)に滞在し、トゥエンテ大学(University of Twente)にて研究を行いました。エンスヘーデは、オランダ-ドイツの国境付近の街で、大都会アムステルダムからは電車で3時間も離れており、自然豊かで静かな環境です。街の規模は小さく、観光客も少ないため、日本人には会いませんでした。オランダはかつてインドネシアを植民地としていたことから、東南アジア系の方には少なからず会いました。オランダ語が母国語であるものの、すべての人が英語を話せるので、言語の苦労はありませんでした。
 今回の渡航のタイミングは、新型コロナウイルスの影響が弱まった(人々の関心が薄れてきた)こともあり決めましたが、オランダではマスクを着けている人はほとんどいませんでした(電車内で散見された程度)。ドイツでは電車内でのみマスク着用が義務づけられていました。また、8月の飛行機内ではマスク着用が義務でしたが、11月の帰国便では誰もマスクを着けていませんでした。
 ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、往復のフライトでロシア上空を飛ぶことができず、従来よりも2時間程度長いフライトでした。また、エンスヘーデにはウクライナナンバーの車もあり、戦争の影響を身近に感じました。

トゥエンテ大学について

 トゥエンテ大学は、当初オランダ第3の工科大学として設立されました。現在は総合大学となっておりますが、まだ工学系の要素が強い大学です。滞在中には、オランダの3つの工科大学(デルフト工科大学・アイントホーフェン工科大学・トゥエンテ大学)合同の学会に参加させていただきました。
 私が所属したのは、トゥエンテ大学のCOmplex Photonic Systems (COPS)研究室における、W. L. Vos教授の研究グループです。Vos教授には、本学で2018年に特別講演を行っていただいた経緯もあり、月に1度はオンラインで議論しております。これまでに共著で論文を出版したほか、国際会議でも共著で発表しています。グループでは毎週木曜日に、全体ミーティングが行われています。学生は自ら立候補して進捗状況を報告し「教授の助言をもらえる貴重な時間を自分の研究に割いてほしい」という強い意欲を感じました。また、毎昼食時はメンバー10人以上が自然と歓談スペースに集まり、1時間程度の雑談(時には研究の話)しているのが印象的でした。さらに、その中の5人程度は15時からティータイムも設けており、会話の話題が尽きないことに感心した一方で、いつ研究しているのか疑問に感じました。また、Vos教授は奥様と共働きで2人のお子さんの面倒をみるため、毎週水曜日を休みにしていました。この分担もヨーロッパにおける男女共同参画の文化を表していると感じました。

歓談スペース。柱に巻いてあるのが本学より持参したお土産。写真右下に本学パンフレット。

歓談スペース。柱に巻いてあるのが本学より持参したお土産。写真右下に本学パンフレット。

 滞在中には、修士学生の修論審査(Master defense)にも参加させていただきました。本学や多くの日本の大学院では、修士2年の学生のほぼすべてが1-2日でまとまって発表しますが、オランダでは学生のインターンなどがあることから個別の発表です。発表形式は本学と大差ありませんでしたが、発表者の家族が聴講に招待されていたことが印象的でした。発表の内容は専門的なため理解は難しいものの、家族の晴れ舞台を見ることは、お互いにとって良いものと感じられました。なお、後述の博士審査と同様に、トゥエンテ大学では指導教員が修士・博士論文の執筆を認めた段階で、事実上卒業は決定するようです。
 また、博士学生の博士審査(PhD defense)にも参加させていただきました。こちらはかなり儀式的なもので、審査の教授は角帽とマントを、発表者(女性)はドレスを身にまとっていました。発表者の家族も含め、関係者が50人以上参加し、審査の最後には指導教員からのメッセージ(手紙)も読み上げられ、感動的でした。審査終了後には、発表者が自費でパーティーを開催するのが通例で、私もコーヒーとケーキをいただきました。

研究について

 研究室では、修士・博士の学生とともに光学実験を行いました。PbS量子ドットを含むトルエン溶液にフォトニック結晶を封入し、波長633nmの励起レーザを照射して、量子ドットからの発光(波長1500nm程度)のスペクトルを測定しました。修士学生は量子ドットの発光強度が弱いことに苦労していましたが、構築した光学測定系が正確ではないことを私が指摘し、修正することで、強度を2倍に増加させることに成功しました。また、量子ドットの発光寿命を測定し、フォトニック結晶による発光寿命の変化を測定しました。博士学生は、測定における検出器の精度が悪いことに苦労しており、最後まで改善はできませんでしたが、私が本学で保有する検出器(超伝導単一光子検出器)を用いることで、大幅に改善できることを共有しました。Vos教授とも相談し、2023年度に博士学生が本学にて測定を実施する予定です。
 得られた成果は、2023年3月に開催される国際学会The 13th International Symposium on Photonic and Electromagnetic Crystal Structures (PECS-XIII)にて、Vos教授との連名で私がポスター発表を行う予定です。また、私とVos教授のそれぞれが強みとする、試料作製技術や光学測定技術について、互いに共有して共同研究を継続することを約束してきました。

学生とともに構築した光学測定系

学生とともに構築した光学測定系

おわりに

 本支援事業にてこのような機会を与えていただき,心よりお礼申し上げます。国際課の皆様にも大変お世話になりました。また、不在中の業務でご支援, ご協力頂いた電気電子工学系教員の皆様ならびに電子・情報事務室の事務員の方々にもお礼申し上げます。