令和5年度海外教育連携教員派遣報告
今田 早紀 准教授 (スウェーデン・ウプサラ大学)

所属 電気電子工学系 准教授
氏名 今田 早紀
期間 令和4年10月27日-令和5年9月30日
滞在先 ウプサラ大学(スウェーデン)

 2022年10月から2023年9月末まで、スウェーデン王国ウプサラ大学オングストローム研究所(Uppsala Univestet Ångströmlaboratoriet、写真1)のX-ray photon science devisionという、教員・学生合わせて70名を超える部門にVisiting researcherとして滞在し、高分解能共鳴X線非弾性散乱・吸収分光法の実験・理論研究をおこないました。

 ウプサラ大学は、日本でいえば室町時代にあたる1477年に創立された大学で、ウプサラ市自体がキャンパスと表現できるほど、街全体に講義ホール、図書館、種々の美術館・博物館、植物園と医療・天文・材料・分析装置開発などの研究所があります。長さの単位であるÅ(1Å=10-10m)で知られる天文・物理学者のA. J. Ångströmにちなんだ名を持つオングストローム研究所は、材料研究、とくにX線分光学領域で欧州屈指の研究所です。

 現在では、多くの高分解能X線分光実験が放射光実験施設で行われます。欧州各国、北米、日本など、それぞれに特徴的な放射光実験施設があり、特別な性能を持つ測定・分析装置を備えています。オングストローム研究所で材料研究をしている人々は、自身の研究テーマに合った装置を備えた世界各国の放射光施設に出張して実験を行っています。特別な装置を用いた実験ですので、申請をして厳しい審査を経て採択された人たちだけが実験を行うことができます。オングストローム研究所ではPhDコースの1年生のうちから研究課題申請を自身で行い、採択されれば実験リーダーとして主体的に研究を遂行します。

 私は主として軟X線発光分光を専門とするチーム(教員1名、PhD学生2名)に属し、滞在期間中に米国のAdvanced Light Source、英国のDIAMOND、日本のSPring-8などの放射光施設でともに実験を行いました。また、帰国後の12月に再びスウェーデンを訪れ、ルンド市にあるMAX IVで2週間に渡り、一緒に実験を行いました。さらに2024年2月には、今度は彼らが日本のSPring-8にやってきて、一緒に実験を行う予定です。

 このように、滞在期間が終わっても当然のように協力を続けるのは、スウェーデンにいる人々の特性によると言ってもよいかもしれません。スウェーデンの人々は非常に寛容、親切で、思いやりがあり、コミュニケーションをとるのがとても上手です。母国語のスウェーデン語とおなじレベルで英語を話すこともあって、大学の外での普段の生活でもほとんど困ることはありませんでした。オングストローム研究所には欧州各国とロシア、中東、インドその他のアジアと、世界中から学生や研究者が集まっています。しかし、どこの国の出身か、学生か研究員か教員か、ということをほとんど意識することがないほどで、純粋に仲間として受け入れられてそこにいます。そして、仲間になったのだから、たとえ日本に帰ってもそれは続く、ということなのです。

 学生の皆さんは海外留学を考えていても、スウェーデンが留学先候補になっていることは少ないのではないかと思います。しかし、上述のような人々がほとんど母国語のように英語を話すことを想像してみてください!是非とも候補に入れることをおすすめします。
 最後になりましたが、今回の海外教育連携教員派遣でお世話になった方々に心より感謝します。渡航予定の年にCOVID-19パンデミックが起こったため、渡航・受け入れ予定の変更に関して本学とウプサラ大学の双方で多くのご配慮を頂きました。ありがとうございました。

写真1(左) ウプサラ大学オングストローム研究所の玄関ホール外観と夜空。緯度が高いため、夏至に近いと22時でも明るい。(右) X-ray photon science divisionのゼミ室。毎週月曜日の全体ミーティングや火曜日のゼミに加え、論文がアクセプトされたときに皆に報告してケーキを食べて祝うイベント“Paper Cake”や、毎週水曜日のFeka (コーヒータイム)、金曜日のSalty Sticks (飲み会)が行われる。

写真2(左) スウェーデン放射光施設MAX IVの高分解能共鳴X線非弾性散乱分光装置(VERITAS)。右奥に伸びる赤紫の部分は、アームと呼ばれる、中程に分光器、先端に検出器を備えた発光分析部。原理的にはアームが長いほど分解能が高い。VERITASのアームの長さは10mで、35meVの分解能をもち(今後更に高分解能化される予定)、X線吸収で励起された格子振動も検出することができる。最近の流行は、Naイオン電池の陽極材料研究で、電池の駆動時に陽極材料の中をどのようにNaイオンが移動するかを、陽極材料の格子振動を通して観測するもの。(右) 1年間一緒に研究したPhD学生のPontus君が分析槽に試料を挿入しているところ。Pontus君の研究テーマはNaイオン電池の陽極材料中の第一原理計算による物性予測と共鳴X線非弾性散乱スペクトル計算だが、理論計算だけでなく、チームの一員として測定実験も行う。