注目研究の紹介 2020年9月

 本学の注目研究を毎月1つずつ紹介します。

 【2020年9月】
 さまざまな植物における光合成の応答戦略 −原始的なコケ植物から製紙原料のユーカリまで-
 (応用生物学系 半塲祐子 教授)

※最新の注目研究や他のバックナンバーはこちら

さまざまな植物における光合成の応答戦略
−原始的なコケ植物から製紙原料のユーカリまで-

二酸化炭素拡散解析装置

 植物の光合成によってつくられる有機物や酸素は地球上のすべての生物にとって不可欠なものです。植物の生存や成長もまた、光合成によって支えられています。
 一度芽生えたらその場を動くことができない植物は、進化に伴って、またさまざまな環境に対して高度な光合成の応答戦略を発達させてきました。私たちの研究グループでは、光合成の鍵となる因子として「葉内での二酸化炭素拡散」に着目し、高精度で測定を行うことにより(下図)、光合成の応答戦略を解明する基礎研究や、光合成速度が高い植物を作るための実用的な研究に取り組んでいます。

シダ植物における二酸化炭素拡散と葉の構造との強い相関

 植物は、進化に伴って葉内での二酸化炭素拡散を増加させるような形態的な変化が生じてきたと考えられています。国際共同研究によりシダ植物35種について、網羅的調査を初めて行いました。原始的なグループに属するシダ植物は、被子植物と比べると葉内の構造が未発達なため二酸化炭素拡散が生じにくく、その結果として光合成速度が低いことが明らかになりました(下図)。

コケ植物の重力に対する応答

 植物は進化の過程で水中から陸上に上陸しました。そのときに大きな重力の変化を経験しているはずですが、重力変化が光合成にどのように影響を与えるかはほとんど注目されてきませんでした。富山大学にて新規に開発された栽培装置を用いて過重力実験を行い、最も原始的な陸上植物であるコケ植物(ヒメツリガネゴケ)では、重力が増加すると葉緑体の形態変化により光合成速度が向上することを世界で初めて明らかにしました(下図)。2019年には国際宇宙ステーション(ISS)を使った微小重力実験を2回行い、現在結果を解析中です。

EcHB1遺伝子を過剰発現させたユーカリの形態と光合成

 樹木のユーカリは成長速度が速く、パルプ化適性に優れているため、製紙原料として広く用いられています。ユーカリの光合成能力の向上につながる遺伝子として、植物組織の形態形成にかかわる転写因子であるEcHB1遺伝子に注目しました。EcHB1遺伝子を過剰発現させたユーカリでは光合成・二酸化炭素拡散能力が増加し、樹高が高くなりました(下図)。さらに、乾燥ストレスを受けても着葉数が多く、ストレス後の成長も良好でした。EcHB1遺伝子は、光合成速度が高く、かつ乾燥耐性が高い植物を作出する上で有用な遺伝子であることが明らかになりました。

【主な発表論文】

  • The photosynthetic capacity in 35 ferns and fern allies: mesophyll CO2 diffusion as a key trait. Tosens T, Nishida K, Gago J, Coopman RE, Cabrera HM, Carriquí M, Laanisto L, Morales L, Nadal M, Rojas R, Talts E, Tomas M, Hanba YT, Niinemets Ü, Flexas J. New Phytologis 2016, 209:1576-1590
  • Hypergravity of 10 G changes plant growth, anatomy, chloroplast sizes and photosynthesis of the moss Physcomitrella patens. Takemura K, Kamachi H, Kume A, Fujita T, Karahara I, Hanba YT. Journal of Plant Research 2017, 130:181–192 2018年日本植物学会JPR論文賞受賞
  • Overexpressing the HD-Zip class II transcription factor EcHB1 from Eucalyptus camaldulensis increased the leaf photosynthesis and drought tolerance of Eucalyptus. Keisuke Sasaki, Yuuki ida, Sakihito Kitajima, Tetsu Kawazu, Takashi Hibino,Yuko T. Hanba. Scientific Reports 2019, 9, Article number: 14121 https://doi.org/10.1038/s41598-019-50610-5(フリーアクセス)

※最新の注目研究や他のバックナンバーはこちら