注目研究

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 【2021年1月】
  機能融合に基づく新規な含フッ素機能分子の創製(分子化学系 山田重之 准教授)

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機能融合に基づく新規な含フッ素機能分子の創製

 私たちの身の回りには多くの有機化合物があり、私たちが生活する上で、有機化合物はなくてはならない物質です。有機化合物の分子構造中に『フッ素』を含んだ物質は、有機フッ素化合物とよばれ、近年、有機フッ素化合物が医薬品や農薬、材料科学において注目を集めております。
 特に、『テフロン®』加工のフライパン、液晶ディスプレイの保護フィルム、明石海峡大橋の外壁塗装に利用されています。これらは全て、フッ素原子のもつ特徴に起因しており、有機フッ素化合物だから実現できる材料なのです(図1)。

図1

 私たちの研究グループでは、何十年も前(先先代:山中寛城教授、先代:石原 孝教授の時代)から、現在(今野 勉教授)も継続的に有機フッ素化合物の合成手法の開発を行い、数多くの世界で初めての有機フッ素化合物を合成してきました。近年になり、「この合成した有機フッ素化合物がなにか機能材料として使えないか?」と考え、含フッ素機能分子の開発プロジェクトが開始されました。ここでは、2016年以降に見出した含フッ素機能分子を紹介します。

液晶性+発光特性=液晶性発光分子

 含フッ素機能材料として、有機フッ素化合物による液晶分子や発光分子はこれまでに多く見出されていました。発光材料として、固体状態で発光する材料も徐々に開発が行われ、近年では結晶や多結晶など、さまざまな分子凝集構造によって発光特性が変化することも明らかにされています。
 私たちの研究グループではフッ素原子の『全原子で最大の電気陰性度』という性質を利用した“負の誘電率異方性”の液晶分子開発を行いました。その研究から“液体のような流動性をもちつつ、結晶のような分子間相互作用による秩序構造を形成する液晶”に着目し、液晶分子が発光特性を示せば、結晶⇄液晶の相転移によって凝集構造が変化し、発光特性が変化すると考え、液晶性と発光特性を兼ね備えた液晶性発光分子の開発に着手しました。

 適切な分子デザインののち、アルコキシ置換した電子豊富な芳香環と、多フッ素化された電子不足芳香環を直線状にパイ共役で連結した多フッ素化ビストラン (図2) を開発しました。それらはアルコキシ鎖長に依らず、昇温⇄降温の両プロセスでネマチック液晶相を発現し、比較的長いアルコキシ鎖の場合には、スメクチックA液晶相を示すことを明らかにしました。
 また、これらの多フッ素化ビストラン誘導体は希薄溶液だけでなく、結晶状態でも強い発光 (φPL = up to 0.66) を示すことも見出しました。特筆すべきことに、加熱⇄冷却によって、結晶⇄液晶相転移によって発光特性 (発光波長と発光強度) が可逆的に変化し、温度によって発光挙動が変化する発光スイッチング特性を有することも明らかにしました。

図2

 さらに、柔軟なアルコキシ鎖の末端に重合性官能基 (例えば、メタクリロイル基) を導入すると、液晶性と発光特性を兼ね備えた高分子(液晶性発光高分子)となります。そこで新規に開発した液晶性発光高分子(図3)も合成し、それらの物性を精査したところ、液晶性や凝集発光特性に加えて、高分子化に起因する高い熱安定性を示すことが明らかとなり、総合的に『液晶性+発光特性+熱安定性』を兼ね備えた複合機能材料となることも見出しました。

図3

凝集発光性の含フッ素π共役分子

 先に示した含フッ素ビストラン誘導体の発光特性が『フッ素原子』の導入によって引き起こされていると考え、次に、フッ素原子が発光特性に及ぼす影響の解明に着手しました。そこで、構造–発光特性の相関を明らかにするために、よりシンプルなπ共役分子である“トラン(ジフェニルアセチレン)”骨格に着目し、フッ素原子の有無やπ共役長の変化による光学特性の調査を開始しました。トラン骨格中にフッ素原子を導入することで、非フッ素化類縁体に比べて、劇的に発光効率が増大する結果となりました (フッ素化体 φPL = 0.93 vs 非フッ素化体 φPL = 0.17)(図4)。
 詳細な結晶構造解析の結果、その発光効率の差が、分子間のH···F水素結合の有無に起因していると判断されました。つまり、分子間で水素結合を形成することによってπ平面の間隔が広くなり (ca. 336–346 pm)、分子間のエネルギー移動が抑制され、発光効率が増大したものと考えています。

図4

 また、2つの多フッ素化トラン構造をヘキサフルオロシクロペンテン骨格で連結してπ共役長を伸長させると、希薄溶液で黄色の発光を示し、非常に大きなストークスシフトを示すことが明らかになりました。これはヘキサフルオロシクロペンテン構造による強い電子求引効果によって、大きな分子双極子モーメントを示したためだと考えています。
 さらに、末端のアルコキシ鎖長のわずかな変化にも関わらず、結晶状態での発光色が水色から黄色まで多彩に変化することも見出しました(図5)。アルコキシ鎖長の変化は、分子の電子密度に大きな影響を与えないと考えると、結晶状態での発光色変化は結晶中での分子凝集構造の変化に起因するものと推察できる。現在も、分子構造変化と発光色変化との相関について明らかにすべく研究を継続しています。

図5

官能基変換に基づく新規な含フッ素発光分子の創製

 当研究室では有機合成を基盤とした有機フッ素化合物の合成手法の開発や、新規な含フッ素機能分子の創製を研究プロジェクトとしています。先に示したとおり、近年、多フッ素化トランやビストランが液晶や発光分子などの機能分子となることを報告してきました。その分子構造をよく見てみると、炭素–炭素三重結合(C≡C)があり、それは『官能基(Functional group)』とよばれ、他の分子構造への変換が可能な分子構造です。
 そこで、最近では多フッ素化ビストランの炭素–炭素三重結合を酸化条件に付すことで、1、2-ジカルボニル構造へ変換できること、そしてその化合物が室温でりん光 (発光寿命τ= 16.9 μs) を示すことを報告しました(図6)。
 実際に、トルエンに溶解させたのち、窒素雰囲気下で発光測定を行ったところ、約550 nm付近の発光バンドの発光強度が劇的に増大し、一方酸素雰囲気下では発光強度が減衰する結果となりました。この結果は、S1励起状態からの項間交差でT1励起状態への遷移を示唆する結果であり、室温でりん光発光を示す実験事実であります。


図6

 現在、含フッ素トランやビストランから、炭素–炭素三重結合の官能基化による新規発光材料の創製プロジェクトを遂行中であり、近い将来には多岐にわたるさまざまな含フッ素発光分子ならびに液晶分子を報告できるものと確信しています。

【主な発表論文】

  • Luminescence tuning of fluorinated bistolanes via electronic or aggregated-structure control
    Morita, M.; Yamada, S.; Agou, T.; Kubota, T.; Konno, T.
    Appl. Sci. 2019, 9, 1905.
    (フリーアクセス:https://www.mdpi.com/2076-3417/9/9/1905)
  • Fluorine-induced emission enhancement of tolanes via formation of tight molecular aggregates
    Morita, M.; Yamada, S.; Konno, T.
    New. J. Chem. 2020, 44, 6704–6708.
  • Synthesis and characterization of bent fluorine-containing donor-p-acceptor molecules as intense luminophores with large Stokes shifts
    Yamada, S.; Nishizawa, A.; Morita, M.; Hosokai, T.; Okabayashi, Y.; Agou, T.; Hosoya, T.; Kubota, T.; Konno, T.
    Org. Biomol. Chem. 2019, 17, 6911–6919.
  • Development of fluorinated benzils and bisbenzils as room-temperature phosphorescent molecules
    Yamada, S.; Higashida, T.; Wang, Y.Z.; Morita, M.; Hosokai, T.; Maduwantha, K.; Koswattage, K.R.; Konno, T. Beilstein J. Org. Chem. 2020, 16, 1154–1162.
    (フリーアクセス:https://www.beilstein-journals.org/bjoc/articles/16/102)

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