19世紀以来、「科学性」を目指した文学研究は、読者の立場を軽視し、「客観的」な読解というものを目指してきた。しかし文学は、読む主体の存在がなければ成り立たないものである。本研究会では、オーギュスタン・ベルクの風土学的思想--人間と、それが生きる風土との相互作用を探求する--を出発点に、文学研究における読者の位相に注目する。文学の受容とは、単に読者が作品の内容を解読するということではない。読者は読む行為の中で、テキストから作用する刺激に反応し、作品に対し問いかけを行い、作品の返答を受け取る。こうした相互作用、ベルクのいう「通態性」の中で受容が行われるのである。こうした受容の問題は、まさに翻訳という場において、可視化されて現れる。翻訳テクストは、作品と読者との「通い合い」の跡を示すものなのである。本研究会では、「通態性」としての翻訳を問うことで、翻訳学研究、ひいては文学研究一般に、新たな視座を提供することが目指される。
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