令和4年度海外教育連携教員派遣報告
和久 友則 准教授 (オタワ大学)

所属 分子化学系
氏名 和久 友則 准教授
期間 令和4年8月1日-令和5年1月6日
滞在先 オタワ大学

 2022年の8月から2023年の1月初旬までの予定でカナダのオタワ大学に滞在しておりました。オタワ市は、カナダ東部のオンタリオ州に属する都市であり、カナダの首都です。人口の規模では、トロント、モントリオール、カルガリーに次ぐ第4の都市です。フランス系住民の多いケベック州とイギリス系住民の多いオンタリオ州との境に位置することから、街中では、英語に加えてフランス語の会話が聞こえてきます。オタワの市街地は碁盤目状に道路が整備されており、バス路線などの公共交通が充実しています。ショッピングセンターやスーパーマーケットなどが大学キャンパスに近接しており、暮らしやすい環境です。また、カナダは総人口約3,800万人のうち22%を移民が占める移民国家であることから多様性を尊重する国民性であり、人々は親切で温かみがあり、数か月の在住ですが愛着を深めることができました。
 研究室から2 km弱離れたところに居住し、毎日、研究室までは片道20分ほどかけて歩いて通っていました。オタワ大学キャンパスの近辺は住宅地になっていますが、街路樹や公園などの緑が非常に多く、夏の晴れた日は大変すがすがしい雰囲気でした。9月下旬から10月中旬までは、メープルなどの木々の紅葉が大変美しく、キャンパスまでの道中の景観を楽しむことができました。また、キャンパスの近くには世界遺産にも指定されているリドー運河が流れています。冬季はリドー運河が完全に凍るため、全長7.8 kmにわたるスケートリンクとなり、スケートで通勤・通学する人もたくさんいるそうです。


キャンパス近辺の様子 (左:8月、右:10月)

キャンパス近辺の様子 (左:8月、右:10月)

キャンパス近辺の様子 (左:8月、右:10月)


リドー運河 (左:8月、右:10月)

リドー運河 (左:8月、右:10月)

リドー運河 (左:8月、右:10月)

 オタワ大学は、1848年に前身校のバイタウン大学として設立されました。医学部、工学部、理学部、法学部などを含む10学部によって運営され、約40,000人以上の学生が在籍しています。そのうちの約20%近くが留学生であり、キャンパス内を行き交う学生も実に多様ですが、日本人の留学生はほぼ皆無に等しいです。オタワ大学は世界最大の英仏バイリンガル大学を標榜しており、キャンパス内の様々な表記や大学からのメール文面が全て英仏併記です。学部の授業も英語とフランス語の両方で開講されています。多くの授業科目には、授業時間と同等もしくはそれ以上の時間のDGDs (Discussion Groups) と呼ばれる補習授業が設定されており、学部生の学習のサポートが大変充実しています。DGDsでは、ティーチングアシスタントの院生が受講生からの質問に答えたり、重要トピックの復習の講義を行ったりするため、院生の研鑽の場にもなっています。キャンパスの建物内には、自習やグループディスカッションが可能なコモンスペースが十分な広さで設置されており、授業時間外での自発的な学習が環境面からもサポートされています。さらに、化学の安全教育を行うe-learningコンテンツが充実しており、実験に携わる全ての構成員が受講を義務付けられています。留学生などの短期間の在籍者に対しても、同一内容の安全教育を実施できるメリットは大きいと感じました。

 私はRobert N. Ben先生の研究室に所属していました。Ben研究室では、細胞を凍結保存する際の細胞へのダメージを軽減するための凍結保護剤の開発に取り組んでいます。私は自らの専門であるペプチドナノ材料との融合により新たな凍結保護剤を開発できないかと模索しながら研究生活を送りました。実験を中心とする生活を送るのは久々のことであり、日々の実験結果に一喜一憂する毎日は学生時代を思い出すとともに新鮮にも感じました。研究室内での教育研究活動を通して、日本の習慣との違いを感じたことが二点あります。ひとつは学生の研究室滞在時間が短く、メリハリがきいていることです。朝9時頃に来て、午後3時頃には帰宅します。しかし、その間は非常にテキパキと動いており、また研究以外の話を学生同士で延々としている光景は全くといっていいほど見かけません。コロナ禍の影響もあり、研究室では実験のみを行い、デスクワークは自宅でするというスタイルのようですが、時間管理に非常に長けていると感心しました。もう一つは、ラボのミーティングでの学生の発言量です。カナダの学生は、教授や先輩に対しても何の忖度もなく堂々と発言する習慣があります。自己紹介も兼ねて私自身の研究内容について発表した際に、専門を異にする修士一年生の学生からも質問が来た時には、正直驚きました。このような習慣は、自分の意見を持ち、それを主張することの重要性や自己管理・時間管理などの学習スキルを小学校から教えられ、実践することにより培われているとのことです。主体性を持ちつつ、移民国家ゆえに多様性を尊重する寛容さや他者への思いやりを持つカナダの人々から学ぶことは大変多いと感じました。
 日本での日常生活から離れ、異なる環境に身を置くと、様々な気づきがあり大変貴重な経験をさせて頂いていると感じました。今回の海外経験で学んだことや考えたことを帰国後の研究教育活動に反映させたいと考えております。


キャンパス内の建物

キャンパス内の建物

キャンパス内の建物

(左:Tabaret Hall:オタワ大学のロゴのモチーフになっている

右:Ben N. Robert研究室が入っている建物)

(謝辞)
 今回の海外派遣を受け入れてくださったRobert N Ben先生および研究室の皆様に感謝申し上げます。スーパーグローバル大学創成支援事業ならびに国際課の皆様には、多方面でのサポートを頂きありがとうございました。私の海外派遣をご容認下さり、不在中に学生の御指導を頂きました小堀哲生先生、松尾和哉先生ならびに応用化学課程の先生方に心より御礼申し上げます。