注目研究の紹介 2020年11・12月

 本学の注目研究を毎月1つずつ紹介します。

 【2020年11・12月】
 流体工学ワクチン -流体力学に基づく感染対策- (機械工学系 山川勝史 准教授)

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流体工学ワクチン -流体力学に基づく感染対策-

流体力学とは

 世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染対策のためには、ウイルスの広がり方について理解を深めることが重要です。ウイルスは気流に乗って広がるため、空気の流れを知ることでウイルスの動きが分かります。この空気の流れを知る学問が「流体力学」です。
 流体力学は広く社会に活かされており、代表的な例として、車や新幹線の車体設計に利用されています。形状とスピードの関係などについて流体力学を用いて解析し、より早く走らせるための最適な形状を論理的に導き出します。
 流体力学におけるコンピュータシミュレーションは、対象物を取り囲む流体について方程式を解き、必要に応じてその解をコンピュータグラフィック処理することでその流れの可視化を行います。研究室では、飛行機や車が動くときの空気の流れを解析したり、水泳選手の動きをシミュレーションし最適な泳法を提案したりと、対象を限定せずに研究しています。研究室ホームページでは、シミュレーション動画を公開しています。

  • 図1

    宙返りするP51

  • 図2

    水泳シミュレーション

ウイルス感染シミュレーション

 2009年に豚インフルエンザが流行した際に、医薬分野の研究者ではないが工学者としての自分にできることはないかと思い、流体力学を用いたウイルス飛沫シミュレーションの研究を始めました。室内の換気によって気流を上手くコントロールし、少しでも感染を減らせる空間をつくることで感染者を減らすことができると考えています。
 気流の動きは流体方程式を解いて求められます。そこに、ウイルス飛沫粒子の大きさや半減期といったパラメーターのほか、飛沫同士の衝突、室内の温室度環境、唾液中のタンパク質の影響等を取り入れた高精度な飛沫計算が可能な飛沫シミュレーションソフトを独自開発し、ウイルス飛沫粒子が飛散する瞬間だけでなく、その後の状況を15分以上に渡りシミュレーションすることに世界で初めて成功しました。現在は新型コロナウイルスを対象として感染ルートをシミュレーションする研究を続けています。

  • 図3

    研究室PC環境下でソフト運用

  • 図4

    世界初の長時間ウイルス飛沫計算

スーパーコンピュータで、より高精度に

  これまでは研究室のメンバーだけで研究をしていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、理化学研究所が開発するスーパーコンピュータ「富岳」を用い他大学等と連携して、より高度な「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」に挑んでいます。

 通勤列車、オフィス、レストランといった日常の様々な室内環境における飛沫シミュレーションに取り組んでいます。富岳の高い計算能力により、シミュレーションの規模も精度も大きく向上します。また、流体工学だけでなく、医療、建築、計算科学など様々な分野との連携により、研究が大きく進化していると感じます。
スーパーコンピュータ「富岳」プロジェクト:室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策

図5

  提供:理研・豊橋技科大,協力:京工繊大,阪大

流体工学ワクチン

 ウイルス飛沫シミュレーションによって多様な環境でのウイルスの広がり方が分かれば、それに合わせて対策をとることが可能です。空気や換気、パーティションなどを活用したリスク低減対策についても研究が進んでいます。こうした流体力学に基づく感染対策を「流体工学ワクチン」と呼んでいます。
 流体工学ワクチンを活用すると、医薬品としてのワクチンができるまでの間も人々に安心感を与え、社会経済活動の回復に貢献できると考えています。また、新たな感染症が出てきたときにも、流体工学ワクチンはそのまま応用が利くというメリットがあります。

【主な発表論文】

  • Masashi Yamakawa, Ryoichi Iwasaki, Naoto Hosotani, Kenichi Matsuno and Shinichi Asao, Influenza Infection Simulation in a Crowded Train, The Proc. of 24th International Symposium on Transport Phenomena, USB, 7pages, (2013)
  • Masashi Yamakawa, Naoto Hosotani, Kenichi Matsuno, Shinichi Asao, Takeshi Inomoto and Sadanori Ishihara, Viral Infection Simulation in an Indoor Environment, The Proc. of Asian Symposium on Computational Heat Transfer and Fluid Flow 2015, Paper ID: 2015-KSCFE-165, USB, 7pages, (2015)
  • Masashi Yamakawa, Hiroki Takemoto, Shinichi Asao and Yongmann M. Chung, Influenza Viral Infection Simulation in Human Respiratory Tract, The Proc. of 29th International Symposium on Transport Phenomena, Paper ID:13, 6pages, (2018)

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