注目研究の紹介 2022年4月

 本学の注目研究を毎月1つずつ紹介します。

 【2022年4月】
  三次元プリンタ製チタン合金の高性能化
  (機械工学系 森田辰郎 教授) ※紹介動画はこちら(YouTubeが開きます)

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三次元プリンタ製チタン合金の高性能化

 チタン合金は、高い比強度(軽くて強い)、優れた耐食性および卓越した耐熱性を併せ持つ金属材料であり、その特性ゆえに航空宇宙産業や医療用インプラント分野などで幅広く使用されています。しかし、この合金は加工性に劣ることから、複雑形状を有する製品への応用時に困難を伴います。

 近年には金属用三次元プリンタが実用化され、同装置の活用によりチタン合金製であっても任意形状の機械製品や医療用製品の作製が容易になりつつあります。とは言え、三次元プリンタを使用した場合には成分が同じであっても微視組織が異なるため、従来材料と特性が大きく異なります。以上を背景として、三次元プリンタ製チタン合金が有する問題の解決と力学特性の制御を目指して、新たに開発した先進的熱処理や周期ポーラス構造に関わる研究を推進しています。

先進的急速高温加熱処理

 医療用CTスキャン装置から得られるデータに基づいてインプラントを三次元プリンタにより作製すれば、個々人の体形に合わせた「カスタマイズド・インプラント」の実用化が将来、可能になると考えられています。しかし、三次元プリンタにより作製したチタン合金は疲労強度が低く(つまり耐久性に劣り)、また摩擦摩耗特性に劣ります。

 そこで、現在までに蓄積した知見に基づき、新たに開発した急速高温加熱処理法を用いて上記の難点を克服するための研究を進めています(図1)。この処理を施せば、摺動特性と耐摩耗性の同時改善が可能な表面硬化層が1分間の処理で形成されるだけでなく、疲労強度も従来材と同程度まで改善されます(図2)。実用化に向けて未だ解決するべき課題はありますが、上記の熱処理を応用すればカスタマイズド・インプラントの実用化へ一歩近づくことができます。

図1
図1 急速高温加熱処理による三次元プリンタ製チタン合金の性能改善
図2
図2 急速高温加熱処理による硬化層の形成および疲労強度の改善

周期ポーラス構造

 人工股関節のように骨内へ埋設される医療用インプラントの場合、それぞれの変形特性が近い方が人体への影響は少なく、また緩みも生じ難くなります。しかし、実際にはチタン合金と骨との変形特性は大きく異なっているため、その制御が必要となります。そこで人工関節などへの応用を視野に入れて、周期ポーラス構造に関わる研究を推進しています(図3)。

 周期ポーラス構造とは、周期配列した微細な空隙を内在する構造のことで、その形態や配置、寸法などをパラメータとして比重、比剛性(重さ当たりの変形のし難さ)、衝撃吸収性、制振性、熱伝導性等を制御し、緻密体では得ることが困難な性質を実現できる構造です(図4)。研究の結果、強度と剛性をそれぞれ制御可能であることが見出されました(図5)。

図3
図3 周期的ポーラス構造の応用
図4
図4 独自考案の周期ポーラス構造の基本単位
図5
図5 周期ポーラス構造のパラメータと剛性(a)および強度(b)との関係

【主な発表論文】

  • Rapid oxynitriding of Ti-6Al-4V alloy by induction heating in air, K. Tamura, S. Takesue, T. Morita, E. Marin, J. Komotori, Y. Misaka, M. Kumagai:, Materials Transactions, Vol.62, No. 1 (2021) 111-117. DOI: 10.2320/matertrans.Z-M2020858
  • Fundamental properties of Ti-6Al-4V alloy produced by selective laser melting method, T. Morita, C. Tsuda, H. Sakai, N. Higuchi, Materials Transactions 58-10 (2017) 1397-1403. DOI: 10.2320/matertrans.M2017103
  • Influences of scanning speed and short-time heat treatment on fundamental properties of Ti-6Al-4V alloy produced by EBM method, T. Morita, C. Tsuda, T. Nakano, Materials Science and Engineering A 704 (2017) 246-251. DOI: 10.1016/j.msea.2017.08.020
  • Effect of combination treatment on wear resistance and strength of Ti-6Al-4V alloy, T. Morita, K. Asakura, C. Kagaya, Materials Science and Engineering A, 618 (2014), 438-446. DOI: 10.1016/j.msea.2014.09.042

【関連の特許出願】

  • 【発明名称】α+β型チタン合金の短時間熱処理方法
    【登録番号】特許3762528号
  • 【発明名称】Ti-6Al-4Vα+β型チタン合金の短時間2段階熱処理方法
    【登録番号】特許3789852号

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