材料化学系 細川三郎准教授らの研究グループは、酸素貯蔵材料として有望な鉄酸化物の高速酸素脱離反応を可視化することに成功しました

 材料化学系 細川三郎准教授らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8(用語1)を利用して、酸素貯蔵材料として有望な鉄酸化物の高速な酸素脱離反応を100ミリ秒間隔で連続撮影し、その中間状態の構造を可視化することに成功しました。
 層状ペロブスカイト鉄酸化物Sr3Fe2O7-δ(用語2) (δは酸素欠損量)は、ガス雰囲気制御によって大量の酸素を高速に脱挿入することが可能であり、自動車の排ガス浄化などに利用される酸素貯蔵材料として有望視されています。本研究では、水素ガスを用いてSr3Fe2O7-δの酸素を引き抜く酸素脱離反応で起こる結晶構造変化を、大型放射光施設SPring-8での時分割X線回折測定(用語3)によって観察したところ、ある条件では酸素欠陥が無秩序に分布する動的な中間状態が存在することを、世界で初めて確認しました。さらに、試料表面への微量金属修飾(用語4)の有無によって、酸素脱離反応の経路が操作できることも明らかにしました。この表面修飾操作は、選択的に物質を作り分ける技術にも適用可能であると考えられます。
 今回の研究では、ガス反応系のX線回折測定では初めて、サブ秒オーダー(瞬きの速度)の連続撮影に成功した。高速な現象の観測を可能にするこの技術は、革新的な機能性材料の開発に向けた、各種反応の最適化や物質の構造設計に役立つと期待されます。

  • 図1
  • 図2

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本研究成果は4月25日付「Advanced Science誌」のオンライン版(外部サイト)にオープンアクセスで掲載されました。

(用語説明)
(1)大型放射光施設SPring-8 :兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

(2)層状ペロブスカイト鉄酸化物Sr3Fe2O7-δ:岩塩層のSrOとペロブスカイト層のSr3Fe2O7-δが交互に積層した構造を持つ物質。

(3)時分割X線回折測定:一定の時間間隔でX線回折測定を連続的に行う測定法。X線回折測定とは、物質にX線を照射した際の回折強度を測定する手法で、物質の結晶構造を反映した回折パターンが得られる。

(4)金属修飾:物質の表面に小さな金属粒子を担持することによって、金属表面での化学反応を促進することができる。