平成27年度海外教育連携教員派遣報告
髙橋和生 准教授 (オルレアン大学)

所属 電気電子工学系
氏名・職名 髙橋和生 准教授
専門分野 プラズマ半導体プロセスならびに微粒子プラズマ微小重力環境科学
期間 平成27年4月27日-10月24日
滞在先 オルレアン大学 ポリテクオルレアン

はじめに

 オルレアン大学は、3つの学部とグランゼコールであるポリテックオルレアン、フランス国立研究センター(CNRS)等の8つの研究組織を含み、14,500名の学生と1,860名の教職員・研究者を擁する組織です。大学、グランゼコール、CNRSが渾然となって一体をなしています。私はオルレアン大学からの招聘状を受け取ってここへ来ましたが、実際にはGREMIと称するCNRSの研究所の一室で、ポリテクオルレアンの仕事をしています。授業や研究室でのインターンシップ実習の指導に関わる一方で、10年前からヨーロッパの研究者と続けている国際宇宙ステーションでの実験プロジェクトに関わる研究活動をここでも進めています。

ポリテクオルレアンの様子

写真1 電磁気学試験

写真1 電磁気学試験

 フランスでは大学は3年制です。それに対し、ポリテクは5年制です。学生は卒業すれば技術士の学位が与えられます。また、学生によっては、オルレアン大学からの修士の学位も合わせて取得し、その後、オルレアン大学の博士課程に進学する場合があります。フランスの高校生は、卒業時に高等教育機関で就学するために資格試験(バカロレア)を受けます。大学の入学要件では、この成績が問われないのに対し、ポリテクでは15/20以上の得点率がその要件となります。ポリテクを卒業した学生は、高い就業能力を有すると一般的に見なされます。就職では、修士よりも技術士の方が有利であるために、大学よりもポリテクをめざす学生は少なくありません。

 ポリテクのカリキュラムは、ほぼ全てが必修科目で構成されています。5年間のうち、わずかに数科目、語学等で選択肢が与えられるにすぎません。再履修は一回のみです。それで単位を落とせば即退学となります。こちらへ来て間もなく、1年次生の電磁気学の講義に参加し、試験実施の補助をしました(写真1)。講義では、いわゆる電界の説明がなされていました。この内容は高校のカリキュラムには予備的なものも一切含まれておらず、学生は初めて習うため、非常に丁寧に講義が進められていました。他の科目でも、初歩的なことに時間がかけられる一方で、それほど高度な内容までは触れられないようです。講義では演習に多くの時間が割かれ、知識量ではなく実務能力や考える力を養うことに力が入れられているようです。そのために、受講生が20人程度になるようにクラス分けがされています。授業時間は1コマ当たり75分、試験時間は60分です。8:00に始業して、午前中に3コマ、1時間45分の昼休みを挟んで、多い日では午後に4コマの授業があります。授業時間数には、学生が与えられた課題に自主的に取り組む時間も加味されています。学生にアルバイトをする時間はありません。ただし、就学にかかる費用はわずかな手数料のみです。学生には、就学もしくは就業を体験するインターンシップが必修科目として課されています。期間によって1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の3種があり、いずかをフランス語以外によるものとしなければなりません。こちらでは日本のような就職活動の時期や機会がありません。インターンシップを通して入学してから早い時期に、社会で必要とされることを学生自ら学び、それを就学の意欲にかえて勉学に励む姿は大変好もしいものです。

オルレアン大学との交流

写真2 副学長懇談

写真2 副学長懇談

 今年度早々に、本学とオルレアン大学との協定が締結されています。このことがあって、オルレアン大学の国際交流担当副学長と面会をしました。国際交流課の課長、担当者も含めて、双方の大学の紹介から始まり、学生のカリキュラム、国際交流の現状、また国際情勢における関心事にまで及ぶ、内容が非常に多岐にわたる長時間の会議となりました(写真2、オルレアン大学の記事へのリンク)。会議の内容を受け、実りある協定となるよう、まずは私の研究室の学生には、9月から4ヶ月間こちらで過ごすことにしてもらい、こちらでの留学手続、受講登録、奨学金の手配を済ませました。全ての手続きはすでに締め切られていましたが、ポリテクオルレアン国際交流課のご理解で迅速に進められました。また、ポリテクの学生に本学の紹介をし、来年度にはインターンシップ科目に合わせて、半年の予定で私の研究室に滞在することが決まりました。

英語教育と国際交流

写真3 プロジェクト報告会

写真3 プロジェクト報告会

 英語を母国語としないという点において、フランスは日本と同じです。英語の能力の指標をTOEICに頼るところも似ています。ポリテクの卒業には、TOEICにてかなりの高得点を取得することが要件となっています。一方、英語での実務において、TOEICの点数が必ずしもその能力を反映しないことは明らかです。そのような状況の中、ポリテクでは交換留学や組織の国際化のために、英語教育にさまざまな工夫を凝らしています。4年次生はプロジェクト実習として1ヶ月程度、研究室に配属されますが、その報告会は英語でのポスター発表で行われます(写真3)。その審査には、担当の教員のみならず、英語科目を受け持つ教員も加わります。

 こちらで滞在して、日本では見ないものに関心を向けるなかで、国際交流に必要なもの、条件について考えさせられます。時には“外”に合わせることも必要でしょう。こちらの方に日本人は英語を話さないと言われたことは、私にとって非常に衝撃的でした。個人的にはそうは思いませんが、そう解釈される事実があるということであり、これに対して応じる必要があると考えます。英語圏以外に住む人同士にとってこの英語は意思疎通を図る手段(道具)以外の何ものでもありません。手段を用意したところで“外”から見て魅力的な何かが欠けていれば、その手段を発揮する機会も失われます。手段に固執し肝心のものを見落とすことほど愚かなことはありません。魅力あるものを伝えるために、手段をうまく使う必要があります。この英語を手段ととらえる一方で、母国語は人にとって手段を超えたものです。人は母国語を通じて、それが生まれた環境や文化、歴史を身にまとって生活しています。共通語である英語は便利です。ただし、訳を通じての理解には限界があります。現地の言語を、訳なしで直接感じることは必要でしょう。英語を手段の一つとして使い、現地の言語に触れながら、現地の人との理解に至ったとき、国際交流が成就するものと考えます。まず必要なのは母国語、とりあえず使うのは手段としての英語(ただしこの能力は机上だけで身につくものではない)、そして求められるのは現地の言語を理解する想像力と柔軟性であるように感じます。これらのことを思えば、国際交流のための人や組織の役割が自然と見えてくるのではないでしょうか。また、国際交流を通じて“外”を見ることによって、“内”なるものが秘めたその良さに気づくことがあることは言うまでもありません。文化や歴史の話題には事欠かない京都に根ざす本学が、世界の学生に対し主張、案内できることは少なくないと改めて気づかされました。

オルレアンでの生活

 最後に、数ヶ月間を超える海外生活は、私にとってはほぼ10年ぶりのことです。前回と比べて思うことも多々あり、これまで深くなじむことがなかった人、風土、言語を体験できたことで、何か満たされた感じもします。オルレアンはロアール川沿いにある街です。川沿いに点在する多くの街の名前には、sur Loire(ロアール川沿いの)の語句が付けられており、古くからその土地の人々が川に愛着を持って生活してきたことがわかります。オルレアンから南の地域にはソローニュと呼ばれる森林地帯が広がります。そこでは古くから狩猟が行われてきました。またその周りには、小麦や葡萄、桜桃、林檎、その他の果物や野菜が栽培される農地が至る所に存在します。パリからここに至るまでには、地下水が豊富に蓄えられており、そのために農耕が盛んなようです。私が住む街オリヴェ(写真4)には築200年を超える家屋が珍しくありません。ロワール川沿いでもソローニュの中でも少し足を伸ばして見る景色からは、住む人たちの豊かな生活が想像されます。人々はVal de Loireと表示された近隣農作物を好んで買い求め、古いものでも大切にしながら日々の生活を送っています。私、外国人に対しては、最初に言葉が通じなくても、親切にしてくれる人ばかりです。お陰で労することなく、快適に暮らしています。この様な機会に恵まれたことに感謝致します。

写真4 オリヴェ

写真4 オリヴェ