成体脳の延髄における新しい神経幹細胞を発見しました

 本学大学院博士後期課程バイオテクノロジー専攻を修了した古部瑛莉子さん(現所属:東邦大学・医学部解剖学講座微細形態学分野・助教)と宮田清司教授らのグループは、成体脳の延髄において新しい神経幹細胞が存在することを発見しました。本成果は、英国Nature系科学雑誌『Scientific Reports』2020年2月18日に掲載されました。

◇研究成果の概要
 ヒトを含めた哺乳類の成体脳には神経幹細胞が存在せず、不変的で再生しない組織と考えられてきました。しかし、近年、成体脳の一部で神経幹細胞の存在が証明され、脳部位に固有の機能維持に必要なだけでなく、その異常は脳疾病発症の原因であることも証明されました。さらに、神経幹細胞は、脳損傷部位への新しい神経やグリア細胞を供給する働きもあり、脳機能の修復・再生に関与することも明らかになりました。
 本研究グループは、今まで神経幹細胞が存在しないとされてきた哺乳類成体脳の延髄において、神経幹細胞が存在することを、タンパク質発現パターン、ニューロスフェアアッセイ、遺伝子改変マウスを用いて証明しました。延髄の神経幹細胞は、脳室に位置する上衣細胞で特殊なニッチェにあることも明らかにしました。また、延髄では、中心管に沿い延髄全域に亘って存在することを明らかにし、新しい細胞供給源の存在を示しました。実際、延髄の出血性損傷モデルにおいて、これらの神経幹細胞の増殖が促進され、損傷部に新しい細胞を供給することが明らかになりました。
 延髄には、運動・感覚、呼吸器系・消化器系・排泄器系の制御の機能があります。今まで、延髄が脳出血・梗塞・物理的事故で損傷した場合、これら生命維持に関わる身体機能の維持・回復には運動によるリハビリテーションが有効とされてきました。しかし、延髄における神経幹細胞の新たな発見は、壊れた延髄機能を回復させる新しい治療法の創出になると考えられます。

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“Neural Stem Cell Phenotype in Tanycyte-like Ependymal Cells in The Circumventricular Organs and Central Canal of Adult Mouse Brain”
Furube E, Ishii H, Nambu Y, Kurganov E, Nagaoka S, Morita M, Miyata S.
英国Nature系学術雑誌『Scientific Reports』