電気電子工学系 小林和淑教授らの研究グループは、様々な中性子施設で半導体ソフトエラー評価を可能にする技術を開発しました。
自動運転や介護ロボットの実用化が期待される中、コンピュータの中核をなす半導体チップの信頼性確保の重要性が高まっています。一方で、地上には宇宙線(用語1)が空から降り注いでおり、宇宙線に含まれる中性子(用語2)によって半導体チップにソフトエラーと呼ばれる事象が生じ、その結果としてコンピュータが誤作動を起こすことが知られています。ソフトエラー率 (用語3)は、地上の宇宙線環境を再現する特殊な中性子源(用語4)を用いた実験で評価する方法が一般的ですが、そのような中性子源は国内で1つ、世界でも5つほどしかなく、年々高まる半導体チップのソフトエラー率評価の需要を満たすには限界がありました。そこで、量子アプリ共創コンソーシアム(略称QiSS)の中で京都大学大学院情報学研究科 橋本昌宜教授が課題責任者を務める産学連携ソフトエラー研究グループでは、任意の中性子源による1つの測定結果とシミュレーションを組み合わせて地上ソフトエラー率を求める手法を開発しました。また、3施設7種類の中性子源による測定値と放射線挙動解析コードPHITS(用語5)を用いてソフトエラー率評価を行い、本手法の有効性を実証しました。本手法によって、限られた特殊な中性子源を用いることなく国内外に多数ある一般の中性子源を用いたソフトエラー率評価が可能となり、高まるソフトエラー率評価の需要に応じることができます。これにより、情報化社会を支える安心・安全で信頼できる半導体チップの開発ペースを加速させることが期待されます。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構( JST ) 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム( JST 、OPERA 、JPMJOP1721 )の支援を受けて実施しました。
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本研究成果は5月29日付「IEEE Transactions on Nuclear Science」のオンライン版(外部サイト)に掲載されました。
(用語説明)
(1)宇宙線:宇宙線とは、宇宙空間に存在する放射線で、地球にも降り注いでいます。宇宙線が大気と反応することで、ソフトエラーを引き起こす中性子が発生します。
(2)中性子:中性子は、原子核の構成要素の一つで、電荷を持たず、質量が陽子とほぼ同じである素粒子です。
(3)ソフトエラー率:単位時間あたりに半導体チップに発生するエラー数。
(4)中性子源:中性子を発生させる装置や物質のことで、ソフトエラーの評価には一般に加速器施設で発生させる中性子ビームが用いられています。
(5)PHITS:JAEAが中心となって開発を進めているモンテカルロ計算コードで、あらゆる物質中での放射線の振る舞いを第一原理的に計算することができます。放射線施設の設計、医学物理計算、宇宙線科学など、工学・医学・理学の様々な分野で利用されています。参考URL(https://phits.jaea.go.jp/indexj.html)