繊維学系 石井佑弥 准教授らの研究グループは、安価な材料を用いた自己発電型のマスク型音響および呼気センサーを開発しました

 繊維学系 石井佑弥 准教授らの研究グループは、一般的に普及している使い捨ての不織布マスクに、安価な汎用プラスチックであるポリスチレンからなる電界紡糸(注1)マイクロファイバ膜を組み込むことにより、自己発電型のマスク型の音響および呼気センサーを開発しました。
 当該マスク型センサーは、市販の3層構造の使い捨て不織布マスクを基材として使用し、このマスクの不織布上またはフィルタ上にポリスチレンの電界紡糸マイクロファイバ膜を直接堆積させて作製します。電界紡糸のみの工程で、ポリスチレンを極細繊維化し、同時に圧電材料の圧電特性に酷似した疑似圧電特性(注2,3)を発現させます。さらに、多くの圧電材料で必要なポーリング(注4)などの後工程を必要としないため、安価かつ省工程で製造できる可能性があります。
 当該マスク型音響および呼気センサーは、電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバ膜の優れた疑似圧電特性により、人の声や呼吸を電気信号として自己発電的に出力することが可能です。また、正極性の高電圧または負極性の高電圧で電界紡糸した2種類の電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバ膜を用いると、それぞれの単一のマイクロファイバ膜を用いる場合よりも、約2倍高い電圧が出力されることを明らかにしました。電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバ膜は極軽量であり、高い通気性を示すことから、基材として用いた一般的な使い捨てマスクの着け心地を損わず、かつフィルタ性能を保持した状態で使用できると考えられます。加えて、当該電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバ膜はエレクトレット(注5)であるため、基材のマスクだけの場合よりも優れたフィルタ特性を示す可能性が高いです。
 当該マスク型音響および呼気センサーを用いると、会話を文字化してモニタに表示したり、外国語の会話を同時翻訳したり、睡眠時無呼吸症候群の発症有無を診断する呼吸モニタに活用されることが期待できます。

図 マスク型音響および呼気センサーの外観(左図)と積層構造の概説図(中央図)と
電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバ膜の走査型電子顕微鏡像(右図)

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本論文は2023年12月19日の国際学術誌「Advanced Energy and Sustainability Research」オンライン版(外部リンク)に掲載されました。

(用語説明)
注1)電界紡糸:プラスチックの溶液もしくは溶融体を高電圧で帯電させ、静電引力によりナノマイクロファイバを紡糸する方法

注2)圧電:本資料では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や圧電樹脂[poly(vinylidenefluoride)(PVDF)など]の圧電材料の結晶体に生じる正圧電効果と逆圧電効果を総じて圧電と表現

注3)疑似圧電特性:圧電材料の圧電特性に酷似した特性

注4)ポーリング:高電界などを利用して物質内の電荷の偏りの方向をそろえる処理方法

注5)エレクトレット:半永久的に電荷を保持する材料