令和4年度 大学院工芸科学研究科 学位記授与式(秋季)
学長祝辞

 本日、修士あるいは博士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。本日皆さんと共に、この学位記授与式を挙行できますことは誠に喜ばしく、嬉しく存じます。
 しかしながら、新型コロナウイルス感染症のため、今回も本式への出席を学位授与者のみに限定させていただきました。学長としては、今日まで皆さんを支えてこられたご家族の皆様、研究を指導された教員、関係者の方々にもお礼を申し上げたいのですが、それが叶わなかったことを残念に思っています。ぜひ皆さんからその旨よろしくお伝えください。

 さて、本学は、1988年の工芸科学研究科設置以来、これまでに12,000名の修士学位と1,262名の博士学位を授与して参りました。本日は、修士学位12001号から12014号まで、課程博士1053号から1069号まで、論文博士211号の学位を授与いたしました。皆さんの成果は、それぞれの分野の更なる発展のため、そして技術革新や新たな産業創出のために活用されることが期待されます。また、皆さんに続く後輩たちの研究にも役立つことと思います。

 工学や科学技術は、人類が直面する様々な課題を解決するために発展し、積み上げられてきたものです。皆さんは、一つの成果を挙げられ、その成果は人類に貢献することになるでしょう。

 しかし、皆さんご自身は、けっして学位を得たことで満足しているわけではなく、本日は一つの通過点であると認識されていると思います。確かに、皆さんは学位という一つの証明書をもつ専門技術者、研究者となられたわけですが、そのことで直ちに現在の課題を解決できるようになったとは言えない、と思います。むしろまだまだ無理でしょうと言わざるを得ないかも知れません。
 私は、学位を有している人は、課題に立ち向かうための調査、研究・実験、試作、改良といったプロセスとそれぞれの局面で粘り強く思考するマインドを磨き、獲得した人であり、さらにその成果の新しさ、有効性、そして場合によっては新たな課題・問題点の存在を明らかにしたことを示すプレゼンテーションや論文発表等を経験した人だと考えています。
 それゆえ学位は、これから遭遇する様々な課題に立ち向かうことができる能力の証明書であると思います。特に博士の学位は、課題そのものをたてる能力がある証だと思います。端的に言えば、学位取得者は、思考し続け、挑戦し続けることが身についたひと、であり、新しい課題に出会い、発見し、探究し、論理を構築し、何某かの成果に結びついていく、そんな喜びを知っているひと、であると思います。

 ところで、本学では、現在、10年、20年、30年後の人類の起こりうる未来を想像し、工科系大学として、これから必要となる研究課題を模索する「KYOTO AGORA」という取り組みを始めています。そこでは、専門分野の異なる教員のディスカッションが行われ、これまでにない視野で課題の構築が行われています。これから必要なことは、広い視野で異なる分野の人々と協議、協働を心がけていくことだと思います。
 皆さんも、自分自身の専門分野についてはさらに磨きつつ、様々な立場で、ご自身の分野を越えて多様な人々と協議、協働を心がけ、真に、人類の幸福のため、直面する様々な課題を的確に解決していって欲しいと思います。

 ここまで述べてきたことは、まさに本学の人材育成の目標として掲げる「テック・リーダー」としての姿勢に他なりません。「テック・リーダー」とは、「専門分野の知識・技能を基盤として、グローバルな現場でリーダーシップを発揮して様々な社会課題に取り組むプロジェクトを成功に導くことのできる人材」のことを言いますが、本日学位を取得された皆さんは、技術者、研究者として、これからも自分自身の専門分野について、さらに修練しつつ、広い視野で異なる分野の人々と協議、協働を心がけて、課題に取り組み、「テック・リーダー」の自覚のもと、真に人類の未来に貢献していただくことを願っています。

 みなさんの今後の益々のご活躍を祈って、お祝いの告辞といたします。

 本日は、誠におめでとうございます。

令和4年9月26日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴