令和5年度 大学院工芸科学研究科 学位記授与式(秋季)
学長祝辞

 本日、修士あるいは博士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。本日皆さんと共に、学位記授与式を挙行できますことは誠に喜ばしく、嬉しく存じます。そして皆さんをこれまで支えてこられたご家族の皆様、関係者の方々に対し、また、研究を指導された教員の方々に心からお祝いを申し上げるとともに、感謝の意を表します。学位記授与者以外の列席は、3年間、新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のため控えていただいておりましたので、こうして直接お礼を申し上げることができることに改めて喜びを感じています。

 今回の学位記授与者は修士が40名で、博士が論文提出による方1名を含めて12名です。1988年の工芸科学研究科設置以来、本日分を含め12,542名の修士学位と、1,319名の博士学位を授与して参りました。皆さんは、工学修士、農学修士、学術博士、工学博士の学位保持者になられたわけですが、加えて修了者の多くは、修士のTECH LEADER、博士のTECH LEADERにもなっておられるはずです。

 大学院工芸科学研究科を修了する皆さんに改めて確認していただきたく、大学院の履修要綱に記してある教育研究上の目的とTECH LEADERについてお伝えしておきます。
 本学大学院工芸科学研究科の教育研究上の目的は、「科学技術の進展や社会の要請に応えるべく21世紀の産業と文化を創出する国際的理工科系高度専門技術者や研究者等の高度専門職業人の養成」であり、TECH LEADERとは、国際的理工科系高度専門技術者のことを言います。博士前期課程では、学部段階より高度な専門的知識・能力を有し、それらを柔軟に応用でき、かつ実践的な外国語運用能力を備えた人材の養成を、博士後期課程では、創造性豊かな優れた研究・開発能力を有する人材、国際経験を有する人材の養成を目標として掲げています。皆さんは、学会等での研究発表や、国際ワークショップ、学位審査のための論文作成、設計や制作、留学、インターンシップなどを通じて、修士のTECH LEADER、博士のTECH LEADERあるいは研究者に、きっとなっておられると思います。

 ところで、現在、世界は人類にとって極めて困難な時代になっていると思います。地球温暖化に関係する災害や未知の感染症発生の可能性の高まり、人間の社会活動に関係する格差問題や紛争など、今後が不安になるような課題は山積みです。また、人類が獲得してきた科学技術にも大きな変革が生じています。20世紀後半からの情報技術の進展は目を見張るものがあり、研究や技術にも新たな手法を生み出すなど好影響を及ぼしている一方、ネット社会に溢れる情報が人間の社会不安を煽る要因になるなどの悪影響も多々目につきます。情報技術に関する課題も確実に生じています。
 こうした人類が直面する課題に対して修士、博士の学位という高度専門職業人の一つの証明書をもつ皆さんへの期待は高まっていると思います。しかしながら、各自の専門分野だけで直ちに、人類が直面している課題や社会が期待する課題を解決することは、まだまだ無理でしょうと言わざるを得ないかもしれません。

 私は、大学院修了の学位を有している人は、課題に立ち向かうための調査、研究・実験、試作、改良といったプロセスとそれぞれの局面で粘り強く思考するマインドを培った人であり、さらに、その成果の新しさ、有効性、そして場合によっては新たな課題・問題点の存在を明らかにしたことを示すプレゼンテーションや論文発表等を経験した人だと考えています。
 それゆえ学位は、これから遭遇する様々な課題に立ち向かうことができる能力の証明書であると思います。特に博士の学位は、課題そのものをたてる能力がある証だと思います。端的に言えば、学位取得者は、思考し続け、挑戦し続けることが身についたひと、であり、新しい課題に出会い、発見し、探究し、論理を構築し、何某かの成果に結びついていく、そんな喜びを知っているひと、であると思います。
 問題や課題に挑戦することは楽しいことです。一つの課題を解決できた、克服したという実感、他者が認めてくれた、という瞬間は「生きていて良かった」ということを実感するときです。きっと皆さんも経験しておられるはずです。
 本日学位を取得された皆さんは、TECH LEADER、研究者として、これからも自分自身の専門分野について、さらに修練しつつ、広い視野で異なる分野の人々と協議、協働を心がけて、課題に取り組み、高度専門技術者の自覚のもと、真に人類の未来に貢献していただくことを願っています。

 本日は、誠におめでとうございます。そして一息ついたらこれから新たな挑戦に歩を進めてください。

 みなさんの今後の益々のご活躍を祈って、お祝いの告辞といたします。

令和5年9月25日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴