令和4年度海外教育連携教員派遣報告
神澤 克徳 准教授 (メルボルン大学)

所属 基盤科学系
氏名 神澤 克徳 准教授
期間 令和4年10月17日-令和5年3月19日
滞在先 メルボルン大学

 私は2022年10月から2023年3月までオーストラリアのメルボルン大学に滞在しました。メルボルンの街を歩いてみると、多種多様な人たちとすれ違います。見た目も、ファッションも、話されている言語もさまざまです。私が街を歩いていても全く違和感がありませんし、個人的に疎外感を感じたことも一度もありません。何度も現地住民と間違われ、道を尋ねられたほどです(尋ねられた場所を知っているときは、私も現地住民のふりをして答えます)。あるデータによれば、人口の4割が外国出身者とのことですが、都市部にいたからか、私の印象としてはもっと多いように感じました。
 このようにさまざまなバックグラウンドをもった人たちが生活していることがメルボルンの多様で自由な雰囲気を生み出すとともに、そこで暮らす人たちのパーソナリティを作り上げているように感じます。メルボルンの人たちは何よりもまず、個人の自由を優先します。それぞれが心地良いように振る舞い、それを互いが尊重し、必要以上に干渉しません。また、メルボルンの人たちは何事にも完璧を求めません。自身もほどほどのところでやめておくのに加えて、他者にもとても寛容です。誰かが失敗してもNo worries!(気にしないで)の一言で済ませてしまうおおらかさがあります。このことは日本人にとって、とても示唆的であるように思いました。日本では完璧を目指すことが良いことのように考えられています。たしかにそのほうが出来上がるもののクオリティは高いのかもしれません。しかし、もっと広い視野で、みんなが心豊かに生きる、人生をエンジョイするという視点で考えてみるとどうでしょうか。私たち日本人は日々の仕事や生活の中で完璧を目指すあまり、つらい思いをしたり、神経をすり減らしたりしているような気がします。また、自分だけでなく、他者にも完璧を求めることで、お互いが首をしめ合って、生きづらくなっている気さえします。メルボルンの人たちのようにもっと肩の力を抜いておおらかに生きてみると、人生をより楽しく豊かにしていけるのかもしれません。

オーストラリアの有名ロックバンドにちなんだAC/DC通り。街じゅうストリートアートで溢れている。

オーストラリアの有名ロックバンドにちなんだAC/DC通り。

街じゅうストリートアートで溢れている。

 前置きが長くなりましたが、私が滞在をしたメルボルン大学のお話をしたいと思います。メルボルン大学は多様で自由なメルボルンの街の縮図のような場所です。全学生の4割が留学生で、150カ国からの学生が学んでいます。私が滞在した大学寮にも、中国、韓国、ベトナム、シンガポールなどアジア圏を中心にさまざまなバックグラウンドをもつ留学生が集まっており、食事の際などに会話を楽しむことができました。どの学生も明るく社交的かつ優秀であり、明確な目標をもって学生生活を送っているのが印象的でした。
 私は近年言語テストに関する研究を行っており、その分野の最先端の教育・研究方法を学ぶため、人文学部言語学科内にある言語テスト研究センター(Language Testing Research Centre)に滞在しました。私を受け入れてくれたのは同センター長のUte Knoch教授であり、副センター長であるJason Fan准教授にも大変お世話になりました。滞在期間中、言語テスト論(Language Testing)という大学院生用の科目を聴講しました。授業の質はとても高く、学生も積極的に授業に参加していました。1回の授業は、1時間の講義(seminar)と別日に行われる1時間の演習(workshop)に分かれています。講義では主要な事項の解説が行われるのに対し、演習では小クラスに分かれ、講義内容に関連するトピックに関してディスカッションや作業を行い、より理解を深めていく構成になっていました。印象に残ったのはRA(リサーチアシスタント)として博士課程の学生が積極的に授業に関わっていた点です。講義は教員が行う一方で、演習はRAの主導で行われていました。課題へのフィードバックも教員とRAが協力して行われていました。これらによって、学生は手厚い指導が受けられます。同時にRAは、学生のうちに教育経験を積むことができ、「教わる」立場から「教える」立場へスムーズに移行できるように思えました。授業以外では、学生のウェルビーイングへのサポートがとても進んでいると感じました。対面でのカウンセリングに加え、E-learningやワークショップなどさまざまな媒体を通してサポートが提供されていました。また、テスト期間中には、特設サイト上でテスト期間を心身ともに健全に乗り切るためのtipsが公開されていました。留学生に対しても、言語面での不安を軽減するような支援が行われていました。日本の大学はこの面では非常に遅れており、早急に対応していく必要があると感じました。

お世話になった言語テスト研究センターの人たち

お世話になった言語テスト研究センターの人たち

 メルボルンのあるビクトリア州はEducation Stateを謳っており、メルボルンにもたくさんの大学があります。滞在期間中には、メルボルン大学以外にも、モナシュ大学、ディーキン大学、ビクトリア大学、スインバン大学とさまざまな大学に見学に行くことができました。メルボルンにある大学は総じてスタッフや施設・設備が整っており、それが教育の質の高さにつながっていると感じました。講義室は大教室も含め、ほぼすべてアクティブラーニング型になっていました。学生が自由に使えるおしゃれなオープンスペースも数多く設けられていました。


メルボルン大学の様子

メルボルン大学の様子

メルボルン大学の様子

 まだ帰国して間もありませんが、メルボルンの公園のきらめく夏の日差し、時々香るユーカリの香り、トラムの鐘の音をすでに恋しく感じます。私は今回の海外教員派遣を通して、教育のことはもちろん、現地の人の生き方、考え方、働き方などさまざまなことを学ぶことができ、今後のキャリアにとって、非常に有益な経験となりました。今回の滞在で知り合った人たちと教育・研究の両面で今後も交流を続けていければと考えています。今回このような機会を与えてくださった関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。