私たちの生活のさまざまな場面で、「光る分子」が活躍しています。例えば、スマートフォンやテレビでお馴染みになってきた有機ELデバイスは、電圧をかけると(電気を流すと)光る分子を使って、映像や文字情報をフルカラーで表示しています。生体内の特定の細胞や組織、あるいは分子やイオンと結合した状態になると発光する分子は、例えばガン細胞の可視化や代謝物の定量測定に利用されています。
我々の研究グループでは、光る分子のデザインから始めて、デザインした分子の合成と物性の評価を行い、さらにそれらを機能材料として応用する研究に取り組んでいます。
光る分子を創りだす研究の面白いところは、分子を合理的にデザインすることによって発現する物性がある程度予測可能であることと、そのことと矛盾しますが、ときとしてデザインした意図とは異なる性質や現象が見つかり、研究が思いもしなかった方向に展開するところです。
室温で燐光を発する材料は、有機EL、バイオイメージング、化学センシング、セキュリティインクなどさまざまな場面で利用されています。現在おもに使われている燐光材料は、イリジウムや白金に代表される希少金属を中心金属とする錯体化合物です。
しかし、希少金属は文字通り、希少、高価なため、ユビキタスな元素のみで燐光を効率よく示す材料の開発に関心が集まっています。
我々のグループでは、希少金属を全く含まないジアロイルジブロモベンゼンが、結晶状態において鮮やかに燐光発光することを見つけました(右図)。用いるアロイル基の種類を変えることにより、発光色を青から緑にまで変化させることができます。
続いて、シロキシ基はそのままでアロイル基がジアリールホスフィニル基に変わった1,4−ジホスフィニル−2,5−ジシロキシベンゼンが、蛍光と燐光を比肩する強度で同時に発する材料であることを見つけました。
希少元素を含まない蛍光−燐光二重発光材料は、蛍光を主成分とし、燐光は定常光測定では極大を観測することが不可能なほど微弱でしかないものがほとんどなので、この材料の二重発光性は特筆に値する性質です。
蛍光と燐光が比肩する強度で発光スペクトルを観測できるので、この燐光材料は燐光強度に影響を与える酸素分子や温度を検知するレシオメトリックな発光センシング材料として利用することができることを明らかにしています(右図)。